公正な税制を求める市民連絡会

広がる貧困と格差の是正に向けて

コラム

アップルの空飛ぶ魔術―失われた2000億円余の税収・連載第3回「遥かなる旅へ」

第3回 遥かなる旅へ

アップルにとってはまず、本社のあるアメリカの高税率をいかにして避けるかが最大の課題となります。そのためにとられた方法が知的財産権(IP)の低税率国への移転です。

アイフォーンなどアップル製品の主たる価値は、その素材となっているアルミや鉄などの金属にあるのではなく、それを作り出すもととなったアイデァや設計などにあり、それらは主としてアメリカの本社(アップル・インク)が開発したものであり、知的財産権として所有されています。しかしその知的財産権を海外のオフショア子会社に移転すれば、それに結び付いた利益も移転することができます。

アップル社は本社で開発した知的財産権の一部を、アイルランド子会社(アイルランド・セールス・インターナショナル:ASI、およびその親会社アイルランド・オペレーションズ・ユアロップ:AOE)に移転したのです。本社のあるカリフォルニアから、アメリカ大陸を横断し、大西洋を越えるはるかなる旅の始まりです。

知的財産権の移転の方法にはいくつかの方法がありますが、アップル社は「コスト・シェアリング契約」によって行いました。コスト・シェアリング契約というのは、複数の当事者の間で研究開発費をあらかじめ分担しておき、その負担に応じてそこから生じた利益を分け合う契約のことです。

アップルの本社とASI、AOEの間のコスト・シェアリング契約の中心的内容は、アメリカの本社は知的財産の法的権利および南北アメリカでの販売権を持ち、アイルランド子会社(ASI)はそれ以外の国での販売権をもつというものです。

この契約によって、高税率のアメリカで課税される対象を、南北アメリカにおける販売収益に限定するともに、南北アメリカ以外から得られた販売収益を、低税率のアイルランド子会社(ASI)に集中することができたのです。これが魔法の第1です。

(公正な税制を求める市民連絡会幹事・合田寛)

アップルの空飛ぶ魔術―失われた2000億円余の税収・連載第2回「4つの魔法」

第2回 4つの魔法

アップルが税逃れ戦略で使っている魔法は、2013年のアメリカ上院の公聴会で、初めて詳細に解明されました。公聴会ではカール・レビン委員長を始め何人かの証人から、アップルの税逃れ戦略について、マジック(魔法)、ギミック(いかさま)などと、強い批判の言葉が飛びかいました。公聴会で明らかとなった驚くべきその魔法の正体は、大きく分けると次の4つの柱からなります。

  1.  アイフォーンなどアップル製品の製造販売にかかわる知的財産権をアメリカの本社からアイルランドのペーパーカンパニー子会社に移し、それによって大半の利益を実体のないアイルランド子会社に移したこと。
  2.  海外子会社の利益を本社の利益に合算するアメリカのタックスヘイブン対策税制を逃れるために、アイルランドに存在する子会社を、存在しないものとして扱うアメリカ税法のルールを使ったこと。
  3.  アイルランド子会社が中国で生産された製品を低価格で購入し、それを消費国に高価格で販売するいわゆる「移転価格」の方法によって、アイルランド子会社に利益を集中したこと。
  4.  アイルランド子会社はアイルランドで設立されているけれど、その管理・支配はアメリカの本社で行っており、アイルランド税法によって課税されない。一方アメリカの税法は会社の設立地がアメリカ以外であれば課税対象としない。この「居住地認定」の違いを利用して、世界のどの国からも課税されない「国籍なき企業」となったこと。

これらの4つの魔法を組み合わせることによって、アメリカ以外の国での販売収益をすべてアイルランド子会社に集中した上で、アイルランドからもアメリカからも課税されない、税の真空地帯を見つけ出したのです。公聴会のカール・レビン委員長はその発見の比類のない価値に注目し、アップルは「聖杯」を手にしたと述べています。

「聖杯(ホーリー・グレイル)」というのはイエス・キリストが「最後の晩餐」で、パンを裂き「私の体である」と言って弟子たちに与え、杯をとって「私の血である」と、弟子たちにその杯からワインを飲ませたという福音書の物語から来ています。それ以来今日まで、その「聖杯」の行方を求めるいろいろな伝説が生まれました。アップルの発見した税逃れの魔術は、幾世紀にもわたってどんなに探しても誰も見つけることができなかった「聖杯」に匹敵するものであったというのです。

(公正な税制を求める市民連絡会幹事・合田寛)

アップルの空飛ぶ魔術―失われた2000億円余の税収・連載第1回「魔法から抜けられない日本」

第1回 魔法から抜けられない日本

アイフォーンやアイパッドなどは日本でもなじみの深い身近な商品ですが、それらの商品を提供しているアップル社はアメリカのカリフォルニアに本社を置く巨大多国籍企業です。本連載はアップル社を例にとり、巨大多国籍企業がどのように税を逃れているかを検証したいと思います。

アップル社は、同社の最新の年次報告書(2016年)が示すように、世界の販売高が2156億㌦(約23.7兆円)、営業利益が600億㌦(約6.6兆円)に上り、世界の企業ランキングのトップ10に入る巨大企業です。日本のトップ企業であるトヨタ自動車と比べると、販売高(28.4兆円)では肩を並べる一方、営業利益(2.9兆円)ではトヨタの2倍以上の高収益企業です。

アップルは日本でも存在感が大きく、年次報告書(2016年)によれば、日本での売上は169億㌦(約1.9兆円)、営業利益は71.65億㌦(約7882億円)となっています。

もし日本で生まれたこの利益に対して法人税率30%で課税したとすれば、2300億円程度の税収が得られたはずです。しかしその税収は日本の国庫には入っていないようです。アップル社の世界的なスケールの税逃れ戦略によって、他の多くの国と同様、日本でもこの巨額の税収が失われていることがこのほどわかりました。

アップル社の世界的規模での税逃れについては、2013年に開かれたアメリカの上院の常設調査小委員会の公聴会で初めて詳細に解明されました。これを受け、ニューヨークタイムスなど欧米の主要メディアでも大きく取り上げられました。アップルの世界的な税逃れは、後で述べるように、アメリカ以外で得られた利益をタックスヘイブンとして知られるアイルランドに移転して税を逃れるという手法で行われました。ヨーロッパ諸国では市民の抗議の声が高まり、各国政府は自国にあるアップル子会社に対する課税を強めようとしています。

昨年8月には欧州委員会がアイルランド政府に対して、アップル社への税優遇は欧州連合(EU)が禁止する個別企業に対する国家補助にあたるものとして、130億ユーロ(約1.6兆円)の追徴課税を行うよう指示するに至っています。

またアップルなど多国籍企業による税逃れを封じることが国際的な優先課題として合意され、OECDによるBEPS(Base Erosion and Profit Shifting税源浸食と利益移転)プロジェクトが具体化され、現在、各国でその取り組みが始まっています。

アップル社の税逃れはまさにBEPS(ベップス)プロジエクトが問題にしている、多国籍企業の利益移転による税逃れの典型例であり、ここに手を付けない限り、BEPSプロジェクトも絵に描いた餅にすぎなくなります。

わが国ではこれまで、アップルなど多国籍企業の税逃れがほとんど野放しで、ヨーロッパ諸国の取り組み比べても大きく後れを取っています。BEPSプロジェクトを主導することが期待されている日本にとって、この問題は真っ先に取り掛からなければならない課題です。

次回以降で述べるように、アップル社は税を逃れるために、法をかいくぐるいくつかの魔法を使ってきました。まずはその魔法を解くことから始めなければなりません。

(公正な税制を求める市民連絡会幹事・合田寛)

アップルの空飛ぶ魔術―失われた2000億円余の税収―近く連載開始

「アップルの空飛ぶ魔術―失われた2000億円余の税収―」。近々に、フェイスブック、ホームページ等での連載を開始します。
本連載では、アップル社を例にとり、巨大多国籍企業がどのように税を逃れているかを検証します。
筆者は、公正な税制を求める市民連絡会幹事・合田寛さんです。
どうぞ、お楽しみに!

(連載・全7回)
第1回 魔法から抜けられない日本
第2回 4つの魔法
第3回 遥かなる旅へ
第4回 「消された」子会社
第5回 ふたたび旅へ
第6回 魔法で消えた1兆円
第7回 BEPSプロジェクトと日本の課題