公正な税制を求める市民連絡会

広がる貧困と格差の是正に向けて

提言

「インボイス制度導入に関する質問書」 公正な税制を求める市民連絡会

公正な税制を求める市民連絡会は、政府に対し、2022年8月8日、衆議院第2議員会館内にて、「インボイス制度に関する質問書」を提出しました。内容は以下のとおりです。

「インボイス制度導入に関する質問書」

 私たち公正な税制を求める市民連絡会は、公正な税制により社会保障を充実させ、貧困と格差を是正することを目的として、2015年5月に設立された市民団体です。
さて、2023年10月1日からインボイス制度の導入が予定されていますが、現状では、納税者の多くが、インボイス制度を理解しておらず、納得もしているとは到底言えない状況にあると言わざるを得ません。私たちは、このままインボイス制度がスタートすることを強く危惧しています。
そこで、納税者が理解し納得できる税制を実現していくため、インボイス制度に関する以下の疑問点にお答えいただきたく、申入れさせていただく次第です。

1 導入時期について
物価高騰とコロナ禍が同時進行している状況下において、小規模・零細事業者に対しては特段の配慮が求められていると思います。このまま、来年10月という時期に、インボイス制度を導入することに問題はないでしょうか。また、来年10月に導入すべき積極的理由があれば教えてください。

2 小規模・零細事業者が不利益を被る可能性と対応策について
2022年1月19日、関係各省庁より「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」が発出され、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者と取引を行う事業者が、その取引条件を見直す場合に、優越的地位の濫用として問題となるおそれがある行為類型と考え方が示されました。これにより、インボイス制度の実施を契機とした優越的地位の濫用については一定の歯止めがかけられる可能性があります。
しかし、公正取引委員会が独禁法違反で措置を行ったのは5年間でわずか5件にとどまり実効性を期待できない だけでなく、独禁法上問題になるような優越的地位の濫用はなくとも、インボイス制度導入を期に小規模・零細事業者が取引から排除されるなどの不利益を被る(例えば、インボイス制度の実施により課税事業者となり、税込価格の値上げをせざるを得なくなった事業者が、競合他社との料金比較によって、取引先から値引きを要請され、応じなければ取引から排除されるなど)可能性がありますが、こうした不利益に対する対策が講じられていないのではないかという懸念があります。
小規模・零細事業者が事実上値引きを強いられたり、市場から排除される可能性については、どのように考えていますか。また、このような場合に、小規模・零細事業者の不利益を回避するための対応策については、どのように考えていますか?

3 税負担の水平的公平性の毀損と対応策について
インボイス制度が導入されても、対消費者取引を行う免税事業者は免税事業者を維持する可能性が高く、事業者免税点制度の公平性が保たれないという問題が生じると思われます 。また給与所得者と個人請負型就業者の間においても、インボイスの導入によって平均実効税率において約4.5%不利になることも明らかになっています 。
このようにインボイス制度は、取引形態や就労形態によって税負担の公平性を毀損するおそれがあり、税制の水平的公平性の観点から問題はないでしょうか。また、このような問題点について、是正措置を検討されているのであれば、その内容を明らかにしてください。

4 簡易課税制度の事後的適用による救済措置の導入等について
2021年11月10日に発表された日本商工会議所の調査結果では、約6割の事業者がインボイス制度の導入に向けて特段の準備を行っていないとされ、またインボイス制度導入に向けた課題として「そもそも制度が複雑でよく分からない」という回答が4割超を占めています 。
簡易課税制度の事前届出などの諸制度を知らないままインボイス登録をしてしまった場合、業種によっては極めて多額の納税をしなくてはならなくなり、果ては納税者の生活そのものが脅かされる恐れがあります。
こうした事態を避けるため、インボイス制度の導入にあたっては、①確定申告時に、簡易課税制度の選択適用を認めること、②簡易課税制度の2年縛りのルールを撤廃するとなどの措置が考えられます が、このような簡易課税制度の事後的適用による救済措置を導入する予定はありますか。別の救済策を検討しているのであれば、その内容を明らかにしてください。

5 帳簿作成の事務負担と対応策について
インボイス制度の導入後は、帳簿を作成するにあたって、請求書等証憑の1枚1枚について「購入した商品・サービスが、標準税率か、軽減税率か」を確認するだけでなく、「登録番号の記載の有無」をも確認し、ない場合は「経過措置の適用を受ける」旨についても帳簿に記載しなければならなくなります。
このように、インボイス制度の導入により、帳簿作成にあたって従来よりも極めて複雑となり、膨大な時間を要することになり、また税理士等に帳簿作成を外注するにしても、相応の費用が掛かることになります。
インボイス制度の導入によって、過重な事務負担を生じさせるという問題点はないでしょうか。帳簿作成の事務負担の軽減のために、どのような措置を検討していますか。

6 個人情報の保護について
国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトでは、登録番号を入力すると、法人の場合は「法人名および本店又は主たる事務所の所在地」が、個人事業者の場合は「本名」が公表されます。
個人情報である本名の公表を望まない個人事業者も少なくなく、「本名」が、請求書に記載された住所や電話番号などの他の情報とともにSNSで拡散される恐れもあります 。
インボイス制度の導入によるプライバシー侵害の危険性について、どのように考えていますか。個人情報保護のため、どのような対応を考えていますか。

以上

コロナウィルス・パンデミック危機における財政に関する緊急提言 -今こそ、財政の力で共同の困難に立ち向かうとき-

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2020年4月14日 

公正な税制を求める市民連絡会

共同代表 宇都宮 健児 外

第1 提言の趣旨

1 コロナウィルス・パンデミックは、世界各国を激しく襲っており、世界大恐慌以来の最大の危機に直面している。今こそ、尊厳ある人間の生存を支える(憲法13条)という財政の本来の目的に立ち返り、民主主義に基づき、財政の力を最大限発揮して、この共同の困難に立ち向かうべきときである。

2 まずは、感染拡大防止のための経済活動抑制に伴う人々の収入減や生活の危機に対処するため、緊急的に、人々の生存を支えることに最大限注力する必要がある。次に、感染拡大の押さえ込みを確認できた後、経済活動を再開しつつ、人々の生活の建て直しを図り、同時に、コロナ災害で明らかになった日本社会の脆弱性を見直し、よりよい社会の構築に向けて、中長期的な施策を実行する必要がある。

3 自己責任を強調し、財源不足を理由に社会保障の削減を進めてきた日本政府のこれまでの財政政策の延長では、この危機に到底太刀打ちできず、社会は破綻へと向かうことから、積極的に財政を投入すべく、これまでの政策の転換が図られなければならない。

4 財源の確保については、一刻の猶予も許されない緊急時である今、当面、国債発行によりつつ、社会が危機に陥った過去の歴史も踏まえ、最も打撃を受けている人々にはより少なく、余裕のある富裕者や利益を得ている大企業にはより多くの税負担を求めるとともに、人間の安全保障のため、過去最大となった防衛費5兆3133億円を見直して大幅に削減し、コロナウィルス対応へと使途を変更すべきである。

5 政府が緊急事態宣言とともに決定した経済対策は、国が新たに支出する一般会計補正予算が16兆7000億円しかなく、108兆円規模の「過去にない強大な規模」であるとの政府の説明とはかけ離れた実態を伴わないものであって、極めて不十分である。その内訳をみても、例えば、

⑴ 現金給付策である生活支援臨時給付金(予算規模4兆円)は、世帯を単位とし、世帯主の収入を基準とした収入減少要件を設け、収入状況を証明する書類を提出して申請することを要件としている。これでは、対象がわかりにくく、平等性に欠け、手続が煩雑で必要な人に行き届かないから、到底、容認できない。世帯単位ではなく人単位とし、申請手続を不要とし、一人一律10万円以上の金額を、直接小切手を郵送するなどの方法により、すべての人に速やかに行き届かせるべきである。その際、DV被害者や外国人など給付金が届かない可能性がある人々にも確実に届くよう、相談機能とセットにするなど制度的に工夫すべきである。何より迅速性を優先すべきであるから、一定収入以上の高額所得者については、年末調整等により給付後に返還を受けるなどの方法により調整すべきである。

⑵ 政府が発表した個人事業主や中小企業向けの「事業継続給付金」(予算規模2兆3000億円)は、フリーランス等に配慮した給付である点は評価できるものの、1回限りの給付でしかないことから、フリーランスを含む個人事業主、非正規労働者を含む労働者が、安心して仕事を休み、感染から身を守れるようにするため、従前の収入の8割から10割を、コロナの感染拡大が抑制されるまでの間、継続的に所得補償する仕組を構築すべきである。

⑶ 東京都は、緊急事態宣言を受けて、休業を要請する施設を公表し、休業や営業時間の短縮に協力した事業者を救済する「感染拡大防止協力金」を創設したが、損失を補償する額としては極めて不十分であるため、要請に応じられない事業者が出るのも当然であり、感染拡大防止策としても実効性に欠ける。休業ないし自粛要請によって直接・間接に影響を受ける事業者は、感染拡大防止という公共の利益のために特別の犠牲を負うものであるから、国の責任で、家賃・地代などの固定費及び損失を補償すべきである。

6 自己責任が喧伝され、格差と貧困の拡大を容認してきた日本社会において、コロナウィルス・パンデミックの影響は、政府の政策によって格差の下層へと追いやられた脆弱な人々の上に最も強く現れている。コロナ災害で顕在化した日本社会の脆弱性を直視し、よりよい社会の構築に向けて、理念を掲げた中長期的な施策を実行する必要がある。

⑴ 無償の教育の実現など、保育、教育、医療、介護等の各分野において、人間の普遍的・基礎的ニーズを充たして人間らしい生活を支えることにより、中間層を含む国民全体の受益感を高めつつ、互いに租税を負担し連帯し合う普遍主義への転換を目指すべきである。

⑵ コロナ災害から社会を建て直し、安定した財源を確保して連帯の社会を構築するため、所得税の累進性の抜本的強化・金融所得に対する課税強化、法人税の税率の引上げ、租税特別措置の抜本的廃止などによる大企業ほど負担率が低い法人税制の是正、富裕者、大企業によるタックス・ヘイブンを利用した税逃れ対策の強化、GAFAなど巨大IT企業への課税強化などを実施し、また、企業の内部留保に対する課税、富裕税の創設なども検討されるべきである。

 

第2 提言の理由

1 財政の力で共同の困難に立ち向かうとき

私たち公正な税制を求める市民連絡会は、財政や税制は、本来、経済や一部の大企業等を潤すためのものではなく、社会が直面している共同の困難に対処し、すべての人が人間らしく生きることを支えること(憲法13条等)にこそ、その存在意義があると訴えてきた。

コロナウィルス・パンデミックは、今、世界各国を激しく襲っており、何百万という人々が職を失い、何百万という企業が倒産し、世界大恐慌以来の最大の危機に直面している。

今こそ、財政の本来の目的に立ち戻り、民主主義に基づいて、財政の力を最大限発揮して、この共同の困難に立ち向かい、1人ひとりの人間の生存を支えるべきときだ。

⑴ 二段階の財政出動-①緊急時の生活保障、②中長期的な社会構築

当面、感染の拡大を防止することを最優先とし、人の往来を含む経済活動を抑制し、それに伴う、人々の収入減や生活の危機から、財政の力を駆使して、人々の尊厳ある生存を緊急的に支えなければならず、それが、国の責任である。

次に、感染拡大の押さえ込みを確認できた後、経済活動を再開しつつ、人々の生活の建て直しを図り、同時に、コロナ災害で明らかになった日本社会の脆弱性に対処し、よりよい社会の構築に向けて、中長期的な施策を実行する必要がある。

⑵ 基本理念・目的の明確化

これらの短期、中長期の施策を行うにあたっては、施策を推進する基本理念ないし目的が極めて重要である。理念なき場当たり的な対応を繰り返してはならない。

重視されるべき理念は、人間の尊厳ある生存の保障(憲法13条・25条の価値の実現)、自己責任社会の転換、富裕層・大企業優遇の不公正な税制の見直し、選別主義から普遍主義への漸進的転換、ジェンダーの視点の重視、様々な分野における社会保障充実の「説明」と「実践」、社会の分断を克服し互いに支え合う連帯の社会の構築であり、これらは、これまで、私たちが掲げてきた基本理念である。

2 所得再分配の抜本的強化-自己責任では社会は破綻へ向かう

⑴ 「自己責任」、社会保障削減方針の転換

コロナ災害に起因する未曾有の危機を乗り越えるため、緊急時及び中長期の施策を通じ、人々の尊厳ある生存を確保することが最も重要であり、そのために、休業時の所得補償をはじめ、社会保障を中心とする巨額の財政資金を必要とする。「自己責任」に委ねていては危機を克服できず社会は破綻へと向かう。財源不足を理由に社会保障の削減を進めてきた日本政府のこれまでの財政政策の延長では、この危機に到底太刀打ちできないことは明らかであり、積極的に財政を投入すべく政策の転換が必要である。

⑵ 財源の確保-大企業等に対する増税をはじめとする所得再分配の強化

第一の財源は、国債である。今は、一刻の猶予も許されない緊急時であり、当面、国債発行によって財源を生み出すしかない。これまで均衡財政を守ってきたドイツをはじめ、他国も、巨額の国債発行によって財源を生み出そうとしている。

第二の財源は、税である。万能の打ち出の小槌はなく、巨額の借金に無限に依存することはできず、財政を支える基本は、人々が互いに支え合い、分かち合うための税である。そして、コロナ災害の危機がもたらした経済的損失から社会を立て直すにあたっては、上記基本理念のもと、まずは、危機によって最も打撃を受けている人々にはより少なく、余裕のある富裕者や利益を得ている大企業にはより多くの負担を求める必要がある。歴史を振り返ると、戦時には富裕者や大企業は大きい負担を受け持ち、欧米では企業の超過利益や所得税の最高税率には80%を上回る税率が課されたときもあり、社会の危機にあたり、余裕のある者に応分の負担を求めることは理にかなっている。

⑶ 税の使途の見直し-人間の安全保障

2020年3月27日に成立した2020年度予算においては、防衛費は、過去最大の5兆3133億円となっている。

コロナウィルスの拡散による経済的被害が続出する中、人間の生活に直結した脅威が何かを直視し、市民の安全を守るために、限られた国家予算をどこに投資するのかが問われるべきときであり、防衛費を大幅に削減し、コロナウィルス対応に使うべく使途を見直すべきである。

⑷ 所得再分配機能の抜本的強化

このようにして財源を確保した上で、各税制の長所・短所を踏まえた適切な税収構成と適切な社会保障給付によって、所得再分配(所得格差を是正するために、市場で分配された所得を、税と社会保障を通じて再分配すること)を抜本的に強化する必要がある。

3 第1弾の財政出動-緊急時の生活保障

上記のとおり、コロナウィルス感染の急拡大に伴う経済の停滞、仕事の喪失等により、すでに生活の危機に瀕している人々が急増していることから、感染拡大の防止、緊急時の生活保障を目的とした、真に大規模な財政出動をして、緊急に、人々の生存を支えなければならない。

⑴ 緊急の現金給付について

2020年4月7日、政府は、緊急事態宣言を発するとともに経済対策を決定し、「過去にない強大な規模となるGDPの2割にあたる事業規模108兆円の経済対策」「世界的に見ても最大級の経済対策」であると強調した。

しかし、実際は、国が新たに支出する2020年度一般会計補正予算は16兆7000億円しかなく、実態を伴わない見かけ倒しというほかなく、極めて不十分である。

その内訳をみても、例えば、現金給付策である生活支援臨時給付金は、予算規模も4兆円程度でしかなく、世帯を単位とし、世帯主の収入を基準とした収入減少要件を設け、収入状況を証明する書類を提出して申請することを要件としてる。これでは、対象がわかりにくく、平等性に欠け、手続が煩雑で必要な人に行き届かないものであって、到底、容認できない。

今、重要なのは、即効性のある支援を、迅速に、平等に、漏れなく、行き届かせることであるから、アメリカなどにならい、世帯単位ではなく人単位とし、申請手続を不要とし、一人一律10万円以上の金額を、直接小切手を郵送するなどの方法により、すべての人に速やかに行き届かせるべきである。その際、DV被害者や外国人など給付金が届かない可能性がある人々にも確実に届くよう、相談機能とセットにするなど制度的に工夫すべきである。何より迅速性を優先すべきであるから、一定収入以上の高額所得者については、年末調整等により給付後に返還を受けるなどの方法により調整すべきであり、また、他の所得補償制度が整備されるまでは、随時、追加支給が検討されるべきである。

⑵ 所得補償について

政府が発表した個人事業主や中小企業向けの「事業継続給付金」(予算規模2兆3000億円)は、フリーランス等に配慮した給付である点は評価できるものの、1回限りの給付でしかない。フリーランスを含む個人事業主、非正規労働者を含む労働者が、安心して仕事を休み、感染から身を守れるようにするためには、休業手当制度や失業給付制度の拡充、新たな制度の創設により、雇用保険加入の有無にかかわらず、従前の収入の8割から10割を、コロナの感染拡大が抑制されるまでの間、継続的に補償すべきである。

⑶ 休業・自粛事業者に対する損失補償

さらに、東京都は、緊急事態宣言を受け、同月10日、休業を要請する施設を公表し、休業や営業時間の短縮に協力した事業者を救済する「感染拡大防止協力金」を創設したが、損失を補償する額としては極めて不十分であるため、要請に応じられない事業者が出るのも当然であり、感染拡大防止策としても実効性に欠ける。感染拡大の罪悪感を感じながらも収入を得て生きるために仕事を続けざるを得ない状態に人を追い込むべきではない。休業ないし自粛要請によって直接・間接に影響を受ける事業者は、感染拡大防止という公共の利益のために特別の犠牲を負うものであるから、国が、家賃・地代などの固定費及び損失を補償しなければならない(憲法29条参照)。

⑷ 真に大規模な財政出動を求める

他に、中小・零細企業に対する支援、地方自治体に対する財政支援等も重要であるが、上記の点だけをみても、政府の施策は極めて不十分である。人々が収入の心配から安心して休業することにより感染拡大を防止できるようにするため、緊急時の生活保障のため真に大規模な財政出動がなされなければならない。

4 第2弾の財政出動-中長期的施策による連帯社会の構築

感染拡大の防止を目的とした緊急対応により感染拡大の押さえ込みを確認できた後、経済活動を再開し、財政刺激によって、雇用を創出し、経済を正常化に導き、人々の生活の建て直しを図り、連帯の社会を構築することを目的に、第2弾の大規模な財政出動が必要となる。

⑴ 露呈した社会の脆弱性

リーマンショック、東日本大震災に続き、今回のコロナ災害により、日本社会の脆弱性があらためて露呈している。

自己責任が喧伝され、格差と貧困の拡大を容認してきた日本社会において、コロナウィルス・パンデミックの影響は、政府の政策によって格差の下層へと追いやられた脆弱な人々の上に最も強く現れている。いち早く仕事を打ち切られる非正規労働等の不安定な労働、失業給付や休業補償の水準の低さ・フリーランスなどを対象とする所得補償制度の不存在・ネットカフェ難民を生む貧弱な住宅政策など、セーフティ・ネットの脆弱性。

保健所の削減、ICUのベッド・人工呼吸器・医療従事者などの不足、その背景にある国立病院の統廃合計画など医療の脆弱性、公務員削減などを背景とする官僚機構の脆弱性。

高騰した学費や生活費をアルバイトで補っている学生の現状と高等教育のあり方。自己責任社会で貯蓄もなく感染リスクがあっても働かざるを得ない人々、いち早く現金給付や所得補償がされる他国との違い、助けない政治。

このようなコロナ災害で顕在化した日本社会の脆弱性を直視し、よりよい社会の構築に向けて、理念を掲げた中長期的な施策を実行する必要がある。

⑵ 普遍主義への漸進的転換

私たちは、「普遍主義」の重要性を強調し、平時から人間の普遍的・基礎的ニーズが充たされる、危機に強い社会の仕組みの構築を提言してきた。

所得制限等によって、一部の困窮者等を選び出して社会保障給付の対象とする「選別主義」は、対象となる者とならない者との間に分断や対立を生じさせ、租税抵抗を高め、市民の連帯を喪失させ、憲法13条・25条の価値を実現するために必要な強靱な財政の構築を阻害する。

そこで、コロナ災害による社会の危機を転機として、所得の多寡などによって給付の対象者を選別せず、より広く普遍的に給付の対象とする普遍主義への転換を図り、無償の医療、無償の教育制度のように、保育、教育、医療、介護等の各分野において、人間の普遍的・基礎的ニーズを充たして人間らしい生活を支えることにより、中間層を含む国民全体の受益感を高めつつ、互いに租税を負担し連帯し合う社会への転換を目指すべきである。

⑶ 安定した財源の確保による連帯社会の構築

普遍主義の実現には安定した財源の確保が不可欠であり、税制における所得税・法人税の度重なる減税、消費税の増税、所得税の分離課税の問題やタックス・ヘイブンを利用した税逃れなど不公正な税制、社会保険・公債への依存等が是正される必要がある。

そして、危機によって最も打撃を受けている人々にはより少なく、余裕のある富裕者や利益を得ている大企業にはより多くの負担を求めるため、次の諸施策を実施していくべきである。

所得税については、累進税率を思い切って強化し、所得1億円を超えると税負担率が低下する逆累進構造を是正するため配当所得など金融所得に対する課税を強める。

法人税については、税率を引上げ、租税特別措置の抜本的な廃止などによって大企業ほど負担率が低い法人税制を改革すべきである。

企業の内部留保に対する課税、第2次世界大戦後に一時導入された歴史のある富裕税を創設し一定規模以上の資産に課税することも検討されるべきである。

富裕者、大企業によるタックス・ヘイブンを利用した税逃れを封じる。

OECDが主導し、130数か国が参加して取り組まれている、デジタルに課税する国際課税ルールの創設や、税の引き下げ競争に歯止めをかける国際的な取り組みを成功させるために、日本が役割を果たすべきである。もし、この国際的な取り組みがアメリカや巨大IT企業などの圧力によって頓挫させられるようであれば、GAFAなど巨大IT企業に課税する、わが国独自のデジタル課税を創設すべきである。

現在の再分配効果が低い税と社会保障の構造は、所得税及び法人税の減税、消費税の増税、社会保険への依存、公債の累積等の相互の連関によって形成されている。消費税には高い税収調達能力がある一方で逆進性の弊害があるが、私たちが標榜する基本理念を具体化する税や社会保障の個別の政策を検討するにあたっては、不公正な税制のあり方を是正しつつ、税と社会保障給付の相互の連関を考え、各税制の長所・短所を踏まえた適切な税の組み合わせを検討し、全体として所得再分配効果の高い制度を構築することを目指すべきである。

以 上

公正な税制を求める市民連絡会・提言

公正な税制を求める市民連絡会による提言です。(2019 年 8 月2 6 日改訂)

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【提言骨子】

第1 基本理念

財源がないことを理由に社会保障を削減する動きが加速しているが、財政や税制の役割や存在意義が見失われていることに大きな要因がある。財政や税制は、経済の発展や一部の大企業等を潤すためのものではなく、社会が直面している共同の困難に対処し、すべての人が人間らしく生きることを支えることにこそ、その存在意義がある。
私たちは、貧困と格差が拡大している今、財政を再構築し、税と社会保障による所得再分配を機能させることによって、人々の生存と尊厳を守り、人々が相互に支え合う社会となることを希求する。
そのために、以下の基本理念を確認し、この変革への賛同をすべての人々に呼びかける。

1 税と社会保障により人々の尊厳ある生を保障(憲法13条の幸福追求権及び25条の生存権の価値を実現)する
⑴ 税と社会保障制度が貧困と格差の拡大を是正していない現状

⑵ 財政は、個人の尊厳ある生を支えるためのものである

⑶ 命の問題を財源で語るな

2 自己責任社会の転換

3 保険主義偏重の是正
日本の社会保障制度は、社会保険料に依存する割合が高く、極めて保険主義的な社会保障制度となっている。しかし、保険主義は、支払能力の低い低所得者に重い負担を強いるものであり、貧困と格差を拡大させる要因となっているから、行き過ぎた保険主義を是正し、社会保障制度の税財源を強化し、国民全体で相互に支え合う制度を再構築する必要がある。

4 普遍主義の追求-選別主義は漏給、社会の分断を生じさせ、租税抵抗を高める
低所得者や困窮者のみに社会保障サービスを集中する選別主義は、漏給(給付の漏れ)を生み、制度の利用者と非利用者との間に対立・分断を生み、租税抵抗(納税に対する抵抗感)を高めることから、無償の医療制度など、すべての人を対象とする普遍主義への志向を強めるべきであり、社会保障充実の実践を通じ、市民相互の連帯を生み、信頼と合意に基づく財政を構築すべきである。

5 税と社会保障の再構築にはジェンダーの視点が重要である

6 様々な分野における社会保障充実の実践
信頼と合意に基づく財政を再構築するためには、生活保護、子育て、教育、医療、介護、住宅等、社会保障制度の様々な分野の充実目標を明確にし、財政は「人々のためにある」という「説明」と「実践」を通じて、財政の存在意義を人々が共有できる社会を目指す必要がある。そうでなければ、累積債務は、増大こそすれ減少はしない。

7 税の透明化と民主的コントロールの確保

第2 公正な税制の実現

1 税制全体の再構築-基幹税としての所得税の復権もなく、社会保障の充実もないままの消費税増税の弊害
所得税を基幹税として再構築し、税に対する信頼確保を図り、社会保障サービスを拡充しながら、税制全体を再構築する必要がある。所得税の機能を回復させず、所得再分配が脆弱なまま、消費税を増税することは逆進性の弊害を強めるものであって、貧困と格差の是正にとって有害である。

2 所得税
累進税率の引き上げや分離課税の総合課税化によって累進性を強化し、また、最低生活費非課税原則に反する現状をあらため、基礎控除の引き上げが必要である。

3 法人税
大企業優遇の法人税制を見直し、税収を確保する。

⑴ 大企業優遇税制を見直し、課税ベースを拡大する

⑵ 法人税を引き下げる方針の見直し

⑶ 申告所得金額の公示制度の復活

⑷ 復興特別法人税の長期継続

4 タックス・ヘイブンとの闘いと破綻した国際的な税のシステムの回復

5 資産課税の強化
相続税・贈与税の累進性を強化すべきであり、富裕税の創設を検討すべきである。

6 その他
⑴ 金融取引税
株式、債券などの金融取引に対して、低率の課税を行うことにより、過剰な金融取引と投機を抑制するとともに、税収を確保すべきである。

⑵ その他の新しい税制

国際連帯税、環境税など、新しい税制についても、検討すべきである。

7 地方自治体の役割と地方財政

第3 市民の連帯の運動による変革


第1 基本理念

財源がないことを理由に社会保障を削減する動きが加速しているが、財政や税制の役割や存在意義が見失われていることに大きな要因がある。財政や税制は、経済の発展や一部の大企業等を潤すためのものではなく、社会が直面している共同の困難に対処し、すべての人が人間らしく生きることを支えることにこそ、その存在意義がある。

私たちは、貧困と格差が拡大している今、財政を再構築し、税と社会保障による所得再分配を機能させることによって、人々の生存と尊厳を守り、人々が相互に支え合う社会となることを希求する。

そのために、以下の基本理念を確認し、この変革への賛同をすべての人々に呼びかける。

1 税と社会保障により人々の尊厳ある生を保障(憲法13条の幸福追求権及び25条の生存権の価値を実現)する

⑴ 税と社会保障が貧困と格差の拡大を是正していない現状

貧困と格差の拡大は放置されてはならない。

しかし、現在、税と社会保障による所得再分配は、危機的な状況にあり、現役層から高齢層への年齢階層間の所得移転に偏り、貧困と格差の拡大を是正する役割を果たしていない。所得再分配効果は、OECD加盟国中最低水準であるばかりか、成人全員が就業している(共働き、一人親、単身)世帯の貧困を逆に拡大させるという驚くべき事態を招来している。

⑵ 財政は、個人の尊厳ある生を支えるためのものである

財政は、本来、人々の人間的な生を可能にし、その尊厳を守るためのものであるから、税と社会保障による所得再分配機能を強化することにより、貧困と格差の拡大を是正し、すべての人の人間らしい生活を保障する必要がある(憲法13条・25条の価値の実現)。

⑶ 命の問題を財源で語るな

税収不足や財政赤字を理由に、社会保障を削減し、憲法が保障する価値を二の次にする政策は誤っており、本末転倒である。「量出制入」(出るを量って、入りを制す)が国の財政の正しいあり方であり、人々の幸福の追求や個人の尊厳を確保するために、どれだけの税収が必要か、どのような税制が必要であるかが考えられなければならない。

2 自己責任社会の転換

所得再分配効果に乏しい税と社会保障制度の背景には、自分で働いて貯蓄をし自分で生活を守るという自己責任社会の問題がある。しかし、1990年代半ば以降、世帯収入は大きく減少し貯蓄ゼロ世帯が増加するなど、自己責任社会はもはや持続しえない。市民が、互いに、税を負担して、社会保障を充実させ、支え合う社会への転換が必要である。

3 保険主義偏重の是正

戦後における社会保険制度の歴史上、社会保障サービスの利用者と非利用者との間の公平を図るという「負担の公平論」を背景に、保険料の引き上げや自己負担の導入など受益者負担が拡大(医療費の自己負担、介護保険・障害者施設の利用者負担、難病対策の医療費自己負担等)されると同時に、税による国庫負担が引き下げられ、保険料と税との入れ替えが推進されてきた。その結果、租税負担率の低さとは対照的に、社会保険料に依存する割合が世界で最も高い水準となっており、極めて保険主義的な社会保障制度となっている。

しかし、保険主義は、自助・自立を基本とし、受益者負担分を支払えない者はサービスの利用から排除され、仮に支払えたとしても、そのために生活を困窮させる可能性があるものであって、低所得者に重い負担を強いる逆進的な性質を有し、貧困と格差を拡大させる要因となっている。

そこで、行き過ぎた保険主義を是正し、社会保障制度の税財源を強化し、国民全体で相互に支え合う制度を再構築する必要がある。

4 普遍主義の追求-選別主義は漏給、社会の分断を生じさせ、租税抵抗を高める

低所得者や困窮者のみに社会保障サービスを集中する選別主義は、厳格な資産調査を必要とし、厳格な資産調査はスティグマ(恥の意識)を高め、社会保障サービスから排除される漏給(給付の漏れ)を生む。それだけでなく、選別主義は、サービスの対象となっていない人が税の負担に抵抗し、対象となっている人となっていない人との間に分断や対立を生じさせて市民の連帯を喪失させ、憲法13条・25条の価値を実現するために必要な強靱な財政の構築を阻害する。実際、選別主義の日本は、生活保護等の制度の利用者と非利用者との間に分断が生まれつつあり、また、世界で最も租税負担が小さな国の一つであるにもかかわらず、北欧などの租税負担が大きい国々より租税抵抗(納税に対する抵抗感)が大きくなっている。

これに対し、所得制限を付けずに、すべての人を対象とする無償の医療や無償の教育制度のように、人間の普遍的・基礎的ニーズを充たし、多くの人を社会保障サービスの対象とする普遍主義は、漏給を防止し、制度の利用者と非利用者・税の負担者とを分断させず、制度への支持を高め、政府への信頼と租税負担への合意を形成する。

そこで、所得再分配政策は、すべての人を対象とする普遍主義への志向を強めるべきであり、すべての人が人間らしく生きることを保障する普遍主義的な制度の構築によって世代間・世代内での連帯を生み、市民全体で支え合う道を標榜すべきである。

5 ジェンダーの視点の重要性

日本の税と社会保障制度は、男性の稼ぎ手とその妻子で構成される世帯を標準モデルとして構築されてきたため、共働き世帯、単身女性や母子世帯に対しては所得再分配効果がほとんどないことから、税と社会保障の再構築にあたっては、ジェンダーの視点からの検討が重要である。

6 様々な分野における社会保障充実の実践

信頼と合意に基づく財政を再構築するためには、財政は「人々のためにある」という「説明」と「実践」を続けることが重要である。

⑴ 財政の存在意義を共有できる社会を目指す

上記基本理念に基づく政策の転換が必要であり、私たちは、生活保護基準や年金の引き下げではなく底上げを、貸与型の奨学金ではなく給付型の奨学金を、貧しい家庭の生まれであっても等しく学習できる無償の教育を、児童扶養手当の削減ではなく拡充を、医療・介護サービス等の自己負担増ではなく税により支え合う制度の構築等を求め、社会保障制度の様々な分野の充実目標を明確にし、「説明」と「実践」を通じて、財政の存在意義を人々が共有できる社会を目指す。

⑵ 債務国家化を回避する道

このような政策へと転換しないまま、貧困と格差の拡大という社会の危機を放置する政府を人々は信頼しない。政府に対する信頼がなければ、人々は租税負担に抵抗し、税収は下がり、累積債務は増大こそすれ減少しない。

国際比較でも、政府への信頼が低い国では、公的債務が膨らみ、累積債務問題が深刻化する傾向にある。債務国家化を回避するためにも、貧困と格差の拡大に歯止めをかけ、社会保障充実の実践を続ける必要がある。

7 税の透明化と民主的コントロールの確保

民主主義の下、国民が税に関する正確な情報にアクセスでき、税制のあり方や税金の使途の決定に実質的に参画できるシステムが構築されなければならない。

 

第2 公正な税制の実現

1 税制全体の再構築-所得税及び法人税の不公正を是正せず、社会保障の拡充もないままの消費税増税の弊害

所得税は、個人の支払能力(担税力)に応じて負担を課す公平性を重視したものであり、また、大企業が収益を拡大し内部留保を増大させている現状において、所得税及び法人税は、貧困と格差の拡大を是正するために重要な租税である。

ところが、所得税及び法人税は、度重なる減税政策により、財源調達能力が低下し、その税収不足が消費税によって穴埋めされてきた。その背景には、富裕層や大企業を対象に減税をすれば、経済成長が促進され、豊かな者がより豊かになり、そのお零れが貧しい者にも滴り落ちるというトリクル・ダウン効果が働くという新自由主義的思想があった。

しかし、消費税は、最も貧しい低所得層の負担が最も重くなる逆進的な性質を有し、また、トリクル・ダウン効果は国際的にも否定されるに至っている(2014年12月OECDワーキングペーパー「所得格差の動向と経済成長への影響」参照)。

所得税及び法人税の不公正を是正せず、その財源調達機能を建て直さないまま、消費税を増税していくことは、低所得者の負担を重くし、所得格差を拡大させ、人々を分断させ租税抵抗を一層高めてしまう。

そこで、所得税及び法人税の不公正を是正し、税に対する信頼確保を図り、社会保障サービスを拡充しながら、税制全体を再構築する必要があり、それをしないまま、消費税を増税することは逆進性の弊害を強めるものであって、貧困と格差の是正にとって有害である。

2 所得税-分離課税の総合課税化等

所得1億円以上の階層から所得税負担率が減少するなど、所得税の再分配効果が後退した要因は、累進税率の緩和と資本性所得の分離課税の存在にある。そこで、累進税率の引き上げや、分離課税の総合課税化によって累進課税の対象外の所得を累進課税の対象とすることにより、所得税の累進性を強化する必要がある。

また、基礎控除が極めて低廉であるため、生活保護法の最低生活費に及ばない収入しかないのに納税の義務を負わされる国民が存在する。担税力を欠く貧しい人に広く課税する現状は、憲法25条から直接要請される最低生活費非課税原則に反することから、これを是正するため、基礎控除の額は引き上げなければならない。

3 法人税

⑴ 大企業優遇税制を見直し、課税ベースを拡大する

大企業であるにもかかわらずほとんど法人税を納税していない企業が少なくなく、巨大企業の実質的な法人税負担率が中小企業より低い事態も生じている。また、様々な特別措置によって、実質的な税負担率は10%程度にしかなっていないとも指摘されている。

受取配当金が課税対象外とされ、租税特別措置法による優遇税制等がその要因となっていることから、受取配当金の益金不算入制度の見直し、租税特別措置の廃止・縮小等により、法人税の課税ベースを拡大する必要がある。

⑵ 法人税を引き下げる方針の見直し

国際的な法人税引き下げ競争の潮流の中、政府は、法人税率(法人実効税率)の引下げを進め、2016年度には20%台にまで引き下げられた。

しかし、上記のとおり、トリクル・ダウン効果は国際的にも否定されている。国際的な企業の立地選択には、市場の魅力、良質な人材、働きやすい生活環境等、様々な要因が影響し、法人税率が直接的な決定要因となるわけではない。また、社会保険料の事業主負担も含めた企業の公的負担(対GDP比)は諸外国に比べ必ずしも高いとはいえない。

法人税の引き下げ分は、法人の内部留保や借入金の返済等へ充当され、株価を高め、株式保有率が高い高額所得者を優遇し、格差を拡大する方向に作用することから、法人税引き下げ方針は見直されるべきであり、財源確保のためには、引き下げられてきた税率の引き上げも検討されるべきである。

⑶ 申告所得金額の公示制度の復活

申告所得金額の公示制度(いわゆる企業長者番付)は、2006年に、個人情報保護を口実になくされた高額納税者番付とともに廃止されたが、企業の納税行動を透明化するため、申告所得金額の公示制度を復活させ、あわせて、納税額を開示する制度を設ける必要がある。

⑷ 復興特別法人税の長期継続

東日本大震災の被災者支援の財源確保を目的として、2011年に、復興特別税が導入され、このうち、復興特別所得税は、実施期間が2013年から2037年の25年間、復興特別法人税は、実施期間が2012年度から2014年度までの3年間と定められた。ところが、復興特別法人税については、経済界からの法人税減税の要望を受け、1年前倒しして2014年度で廃止された。

法人も、個人と同様、社会的責任を果たし、長期にわたり被災者支援に貢献すべきであるから、復興特別法人前を復活させるとともに、実施期間を少なくとも個人と同様の時期まで伸長すべきである。

4 タックス・ヘイブンとの闘いと破綻した国際的な税のシステムの回復

多国籍企業や富裕者によるタックス・ヘイブンを利用した税逃れが横行している。タックス・ヘイブンがある限り、いくら国内で税の累進性を強めても、大企業に対する課税を強めても、その効果は損なわれる。

OECDの「税源浸食と利益移転(BEPS)」プロジェクトの最終報告書は、タックス・ヘイブン対策に向けた大きな第一歩である。政府はこれを実効あらしめるための関係法律を早急に制定すべきである。

とりわけ、多国籍企業に対して国別の利益や納税額の報告を求める「国別報告書」の提出の義務付けは、大きな成果である。しかし、国別報告書は、本社所在地国に対してだけでなく、多国籍企業が事業を行うすべての国に対して報告すべきものとすべきである。

政府は、日本で活動する多国籍企業の子会社の情報を、本社所在地国から早急に入手し、わが国における事業内容を把握するとともに、わが国における経済活動によってもたらされた利益には、適正な課税を行わなければならない。

政府は、タックス・ヘイブンに子会社を設立しているわが国の大企業に対して、その子会社の実態を公表させるとともに、タックス・ヘイブンを利用した税逃れを封じるべきである。

日本は、BEPSプロジェクトの取組で積極的な役割を果たしてきたが、現在「ポストBEPS」の課題として、途上国を含む129か国の参加で進められている、GAFAなどデジタルIT企業に対する課税の取組において、主導的な役割を果たすべきである。

政府は、国際的な法人税の引き下げ競争に歯止めをかけるために、国際的な共同行動を呼びかける必要がある。

5 資産課税の強化

⑴ 相続税

相続税の課税ベースを拡大し、かつ累進課税を強化することにより、所得再分配機能を高めるべきである。

相続税の課税方式を、現行の「法定相続分課税方式」から「遺産取得税方式」に改めるべきである。その上で、基礎控除額は、被相続人との親族関係に応じた金額とし、担税力のある相続人及び受遺者については、基礎控除額を縮小すべきである。

相続税の最高税率(現行55%)を引き上げ、累進課税を強化すべきである。

⑵ 贈与税

住宅取得資金、教育資金、結婚・子育て資金の贈与に係る非課税の特例は、本来、国が政策として行うべき住宅政策、教育の機会均等、少子化対策などの責任を国民に押し付けるものである。しかも、行き過ぎた高額な非課税制度は、相続税の補完税たるべき贈与税を形骸化させ、贈与を受けられる者と贈与を受けられない者との格差を助長し、「格差の世代間連鎖」を促すことになるため、縮小すべきである。

贈与税の最高税率(現行55%)を引き上げ、累進課税を強化すべきである。

⑶ 富裕税

近年、日本では、所得格差以上に資産格差の拡大が深刻となっている。投資可能資産100万ドル(約1億円)以上を保有する富裕層は、アメリカ、中国に次いで多い。世界的な格差拡大に呼応して各国で問題提起されているように、これらの富裕層の保有資産に対して、緩やかな累進税率で課税する富裕税の創設を検討すべきである。

6 その他の税制

⑴ 金融取引税

金融取引税は、株式、債券などの金融取引に対して、低率の課税を行うことによって、過剰な金融取引と投機を抑制するとともに、大幅な税収を確保しようとするものである。

ヨーロッパでは、すでにフランスが導入し、EU加盟国内でも導入の動きがあり、日本でも導入に踏み切るべきである。

⑵ その他の新しい税制

国際連帯税、環境税など、新しい税制についても、検討すべきである。

7 地方自治体の役割と地方財政

普遍主義は、すべての人を対象に、その普遍的・基礎的ニーズを充たすものであり、そこでは、現金給付ではなく、医療、介護、保育、教育などの対人社会サービス(現物給付)が所得制限なしに提供されることが重要であり、それによって、格差が是正される。

そして、対人社会サービス(現物給付)は、住民に身近な地方自治体が供給するのが適切である。住民のニーズを的確に把握でき、また、住民にとっても受益のあり方が見えやすく税負担への同意が促されるからである。

住民のニーズにあった対人社会サービス(現物給付)を充実させるため、地方自治体の財政基盤の強化が重要であり、地方税及び地方交付税の強化等の諸方策が検討されるべきである。

第3 市民の連帯の運動による変革

私たちは、財政を再構築し、税と社会保障による所得再分配を機能させることによって、人々が尊厳ある生存をまっとうできる社会への変革を目指す。そのためには、分断と対立の罠に陥ることなく、市民による粘り強い連帯の運動を進める必要がある。

1 基本理念の確認・共有

税と社会保障のあり方の問題は、私たちは、どのような社会を目指すのかという選択の問題でもある。個別の税制度等を検討し選択するより先に、目指すべき社会像や基本的な理念を確認し、共有する必要がある。

例えば、税と社会保障は一体的に考える必要があるが、新自由主義を基本とする「税と社会保障の一体改革」と、私たちが目指す一体的改革とでは、その姿はまったく異なる。

基本理念の確認・共有があってこそ、具体論における意見の相違を乗り越えられるが、それがなければ、運動は迷走し、ときに分断と対立の罠に陥り、結果的に、現状を肯定する力を利することになる。

私たちは、人間の尊厳ある生存の保障(憲法13条・25条の価値の実現)、自己責任社会の転換、富裕層・大企業優遇の不公正な税制の見直し、選別主義から普遍主義への漸進的転換、社会の分断を克服し互いに支え合う連帯の社会を標榜し、粘り強い連帯の運動を進める必要がある。

2 現場に軸足を置き、各分野の運動を財政問題で連結させる運動

医療、障害、教育、生活保護等の各現場に軸足を置き、現場の事実、当事者の声を財政政策に反映させ、財政問題で各分野の取組を横串で連携させる運動が構築する必要がある。

3 生活困窮者等の支援と幅広い層の受益を充たすことの両立

社会サービスによる受益が少ないため、人々が、租税負担に抵抗し、国際的にみても租税負担率が低い水準にあり、累積債務が増大し、生活保護利用者などの一部の受益者をバッシングしている状況を変革し、人々の共通のニーズを広く充たし、幅広い層の受益感を高めつつ、税負担への同意を促し、互いに支え合う連帯の社会へと転換する必要がある。

そのためには、ただでさえ財源がないとされる状況の中で、人々の共通のニーズを充たすことに振り向ける財源を作らなければならない。その際、格差と貧困を拡大させる社会構造の中で、現に生活に困窮している人や不平等の犠牲になっている人に対する支援を弱めることがあってはならない。

4 短期、中期、長期のプロセス、説明と実践

しかし、例えば、幼児から大学までの教育費の無償化、医療費の患者負担、介護サービスの自己負担、これら3分野の無償化だけでも大きな規模の新規財源が必要とされる。同時に、生存を脅かされている人への支援は不可欠であり、社会保障費の「自然増」もある。

この難しい課題を克服するため、人々の叡智を結集し、基本理念を実現していくプロセスを、短期、中期、長期に切り分け、各プロセスの政策目標を設定し、財政は「人々のためにある」という「説明」と「実践」を重視し、したたかで粘り強い取組を続ける必要がある。

以 上

(2019年8月26日改訂)

公正な税制を求める市民連絡会・2015年提言

公正な税制を求める市民連絡会が、2015年12月に発表した提言です。

「パナマ文書」によりタックス・ヘイブンを利用した租税回避の実態が暴露されましたが、タックス・ヘイブンについて、第2、4「4 タックス・ヘイブンとの闘いと破綻した国際的な税のシステムの回復」で述べられています。

≪公正な税制を求める市民連絡会・2015年提言(PDF)≫

第1 基本理念

財源がないことを理由に社会保障の削減する動きが加速しているが、財政や税制の役割や存在意義が見失われていることに大きな要因がある。
財政や税制は、経済の発展や一部の大企業等を潤すためのものではなく、社会が直面している共同の困難に対処し、すべての人が人間らしく生きることを支えることにこそ、その存在意義がある。

私たちは、貧困と格差が拡大している今、財政を再構築し、税と社会保障による所得再分配を機能させることによって、人々の生存と尊厳を守り、人々が相互に支え合う社会となることを希求する。

そのために、以下の基本理念を確認し、この変革への賛同をすべての人々に呼びかける。


1 税と社会保障により人々の尊厳ある生を保障(憲法13条の幸福追求権及び25条の生存権の価値を実現)する

⑴ 税と社会保障が貧困と格差の拡大を是正していない現状
貧困と格差の拡大は放置されてはならない。
しかし、現在、税と社会保障による所得再分配は、危機的な状況にあり、現役層から高齢層への年齢階層間の所得移転に偏り、貧困と格差の拡大を是正する役割を果たしていない。
社会保障による貧困削減効果は、OECD加盟国中最低水準であるばかりか、共働き世帯・単身世帯の貧困を逆に拡大させるという驚くべき事態を招来している。

⑵ 財政は、個人の尊厳ある生を支えるためのものである
財政は、本来、人々の人間的な生を可能にし、その尊厳を守るためのものであるから、税と社会保障による所得再分配機能を強化することにより、貧困と格差の拡大を是正し、すべての人の人間らしい生活を保障する必要がある(憲法13条・25条の価値の実現)。

⑶ 命の問題を財源で語るな
限られた税収しかないことによって枠付け、憲法25条の価値の実現を二の次にするのは、本末転倒であり、人々の生存と尊厳を守るために、どれだけの税収が必要か、どのような税制が必要であるかが考えられなければならない。


2 行き過ぎた保険主義の是正

戦後における社会保険制度の歴史上、社会保障サービスの利用者と非利用者との間の公平を図るという「負担の公平論」を背景に、保険料の引き上げや自己負担の導入など受益者負担が拡大(医療費の自己負担、介護保険・障害者施設の利用者負担、難病対策の医療費自己負担等)されると同時に、税による国庫負担が引き下げられ、保険料と税との入れ替えが推進されてきた。
その結果、租税負担率の低さとは対照的に、社会保険料に依存する割合が世界で最も高い水準となっており、極めて保険主義的な社会保障制度となっている。

しかし、保険主義は、自助・自立を基本とし、受益者負担分を支払えない者はサービスの利用から排除され、仮に支払えたとしても、そのために生活を困窮させる可能性があるものであって、低所得者に重い負担を強いる逆進的な性質を有し、貧困と格差を拡大させる要因となっている。

そこで、行き過ぎた保険主義を是正し、社会保障制度の税財源を強化し、国民全体で相互に支え合う制度を再構築する必要がある。


3 普遍主義の追求-選別主義は漏給、社会の分断を生じさせ、租税抵抗を高める

低所得者や困窮者のみに社会保障サービスを集中する選別主義は、厳格な資産調査を必要とし、厳格な資産調査はスティグマ(恥の意識)を高め、社会保障サービスから排除される漏給(給付の漏れ)を生む。
それだけでなく、選別主義は、サービスの対象となっていない人が税の負担に抵抗し、対象となっている人となっていない人との間に分断や対立を生じさせて市民の連帯を喪失させ、憲法13条・25条の価値を実現するために必要な強靱な財政の構築を阻害する。
実際、選別主義の日本は、生活保護等の制度の利用者と非利用者との間に分断が生まれつつあり、また、世界で最も租税負担が小さな国の一つであるにもかかわらず、租税抵抗(納税に対する抵抗感)が最も大きい国となっている。

これに対し、例えば、すべての人を対象とする無償の医療や無償の教育制度のように、多くの人を社会保障サービスの対象とする普遍主義は、漏給を防止し、制度の利用者と非利用者・税の負担者とを分断させず、制度への支持を高め、政府への信頼と租税負担への合意を形成する。

そこで、所得再分配政策は、すべての人を対象とする普遍主義への志向を強めるべきであり、すべての人が人間らしく生きることを保障する普遍主義的な制度の構築によって世代間・世代内での連帯を生み、市民全体で支えあう道を標榜すべきである。


4 ジェンダーの視点の重要性

日本の税と社会保障制度は、男性の稼ぎ手とその妻子で構成される世帯を標準モデルとして構築されてきたため、共働き世帯、単身女性や母子世帯に対しては所得再分配効果がほとんどないことから、税と社会保障の再構築にあたっては、ジェンダーの視点からの検討が重要である。


5 様々な分野における社会保障充実の実践

信頼と合意に基づく財政を再構築するためには、財政は「人々のためにある」という「説明」と「実践」を続けることが重要である。

⑴ 財政の存在意義を共有できる社会を目指す
上記基本理念に基づく政策の転換が必要であり、私たちは、生活保護基準や年金の引き下げではなく底上げを、貸与型の奨学金ではなく給付型の奨学金を、貧しい家庭の生まれであっても等しく学習できる無償の教育を、児童扶養手当の削減ではなく拡充を、医療・介護サービス等の自己負担増ではなく税により支え合う制度の構築等を求め、社会保障制度の様々な分野の充実目標を明確にし、「説明」と「実践」を通じて、財政の存在意義を人々が共有できる社会を目指す。

⑵ 債務国家化を回避する道
このような政策へと転換しないまま、貧困と格差の拡大という社会の危機を放置する政府を人々は信頼しない。
政府に対する信頼がなければ、人々は租税負担に抵抗し、税収は下がり、累積債務は増大こそすれ減少しない。
国際比較でも、政府への信頼が低い国では、公的債務が膨らみ、累積債務問題が深刻化する傾向にある。
債務国家化を回避するためにも、貧困と格差の拡大に歯止めをかけ、社会保障充実の実践を続ける必要がある。


6 税の透明化と民主的コントロールの確保

民主主義の下、国民が税に関する正確な情報にアクセスでき、税制のあり方や税金の使途の決定に実質的に参画できるシステムが構築されなければならない。

第2 公正な税制の実現

1 税制全体の再構築-基幹税としての所得税の復権もなく、社会保障の拡充もないままの消費税増税の弊害

所得税は、個人の支払能力(担税力)に応じて負担を課す公平性を重視したものであり、貧困と格差の拡大を是正するために重要な租税である。

ところが、所得税は、度重なる減税政策により、財源調達能力が低下し、その税収不足が消費税によって穴埋めされてきた。

しかし、消費税は、最も貧しい低所得層の負担が最も重く、逆進的な性質を有する。所得税による財源調達機能を建て直さず、所得再分配が機能していない中で、消費税を増税していくことは、低所得者の負担を重くし、所得格差を拡大させ、人々を分断させ租税抵抗を一層高めてしまう。

そこで、所得税を基幹税として再構築し、税に対する信頼確保を図り、社会保障サービスを拡充しながら、税制全体を再構築する必要がある。
所得税の機能を回復させず、所得再分配が脆弱なまま、消費税を増税することは逆進性の弊害を強めるものであって、貧困と格差の是正にとって有害である。


2 所得税-分離課税の総合課税化等

所得1億円以上の階層から所得税負担率が減少するなど、所得税の再分配効果が後退した要因は、累進税率の緩和と資本性所得の分離課税の存在にある。
そこで、累進税率の引き上げや、分離課税の総合課税化によって累進課税の対象外の所得を累進課税の対象とすることにより、所得税の累進性を強化する必要がある。

また、基礎控除が極めて低廉であるため、生活保護法の最低生活費に及ばない収入しかないのに納税の義務を負わされる国民が存在する。
担税力を欠く貧しい人に広く課税する現状は、憲法25条から直接要請される最低生活費非課税原則に反することから、これを是正するため、基礎控除の額は引き上げなければならない。


3 法人税

⑴ 大企業優遇税制を見直し、課税ベースを拡大する
大企業であるにもかかわらずほとんど法人税を納税していない企業が少なくなく、巨大企業の実質的な法人税負担率が中小企業より低い事態も生じている。
また、様々な特別措置によって、実質的な税負担率は10%程度にしかなっていないとも指摘されている。
受取配当金が課税対象外とされ、租税特別措置法による優遇税制等がその要因となっていることから、受取配当金の益金不算入制度の見直し、租税特別措置の廃止・縮小等により、法人税の課税ベースを拡大する必要がある。

⑵ 法人税を引き下げる方針の見直し
平成27年度税制改正において、法人税(法人実効税率)を「以降数年で20%台まで引き下げることを目指す」とされた。
しかし、富裕層や法人に対する減税をすれば経済成長を促し、豊かな税収をもとらすとともに、豊かさは貧しい者にも滴り落ち、格差も抑制されるという、いわゆるトリクルダウン効果は、国際的にも否定されている(OECDワーキングペーパー「所得格差の動向と経済成長への影響」)。
また、国際的な企業の立地選択においても、租税負担の高さは重要な要素となっていない。
したがって、法人税率の引き下げが法人税収を増大させると考えるべきではない。
法人税の引き下げ分は、法人の内部留保や借入金の返済等へ充当され、株価を高め、株式保有率が高い高額所得者を優遇し、格差を拡大する方向に作用することから、法人税引き下げ方針は見直されるべきであり、財源確保のためには、引き下げられてきた税率の引き上げも検討されるべきである。

⑶ 申告所得金額の公示制度の復活
申告所得金額の公示制度(いわゆる企業長者番付)は、2006年に、個人情報保護を口実になくされた高額納税者番付とともに廃止されたが、企業の納税行動を透明化するため、申告所得金額の公示制度を復活させ、あわせて、納税額を開示する制度を設ける必要がある。

⑷ 復興特別法人税の長期継続
東日本大震災の被災者支援の財源確保を目的として、2011年に、復興特別税が導入され、このうち、復興特別所得税は、実施期間が2013年から2037年の25年間、復興特別法人税は、実施期間が2012年度から2014年度までの3年間と定められた。
ところが、復興特別法人税については、経済界からの法人税減税の要望を受け、1年前倒しして2014年度で廃止された。
しかし、東日本大震災から4年半以上が経過して現在も、いまだ約20万人もの人が避難生活を続け、多くの被災者が生活の不安を抱えたままである。
法人も、個人と同様、社会的責任を果たし、長期にわたり被災者支援に貢献すべきであるから、復興特別法人前を復活させるとともに、実施期間を少なくとも個人と同様の時期まで伸長すべきである。


4 タックス・ヘイブンとの闘いと破綻した国際的な税のシステムの回復

多国籍企業や富裕者によるタックス・ヘイブンを利用した税逃れが横行している。
タックス・ヘイブンがある限り、いくら国内で税の累進性を強めても、大企業に対する課税を強めても、その効果は損なわれる。

OECDが10月に発表した「税源浸食と利益移転(BEPS)」プロジェクトの最終報告書は、タックス・ヘイブン対策に向けた大きな第一歩である。
政府はこれを実効あらしめるための関係法律を早急に制定すべきである。

とりわけ、多国籍企業に対して国別の利益や納税額の報告を求める「国別報告書」の提出の義務付けは、大きな成果である。
しかし、国別報告書は、本社所在地国に対してだけでなく、多国籍企業が事業を行うすべての国に対して報告すべきものとすべきである。

政府は、日本で活動する多国籍企業の子会社の情報を、本社所在地国から早急に入手し、わが国における事業内容を把握するとともに、わが国における経済活動によってもたらされた利益には、適正な課税を行わなければならない。

政府は、タックス・ヘイブンに子会社を設立しているわが国の大企業に対して、その子会社の実態を公表させるとともに、タックス・ヘイブンを利用した税逃れを封じるべきである。

政府は、国際的な法人税の引き下げ競争に歯止めをかけるために、国際的な共同行動を呼びかける必要がある。


5 資産課税の強化

⑴ 相続税
相続税の課税ベースを拡大し、かつ累進課税を強化することにより、所得再分配機能を高めるべきである。
相続税の課税方式を、現行の「法定相続分課税方式」から「遺産取得税方式」に改めるべきである。
その上で、基礎控除額は、被相続人との親族関係に応じた金額とし、担税力のある相続人及び受遺者については、基礎控除額を縮小すべきである。
相続税の最高税率(現行55%)を引き上げ、累進課税を強化すべきである。

⑵ 贈与税
住宅取得資金、教育資金、結婚・子育て資金の贈与に係る非課税の特例は、本来、国が政策として行うべき住宅政策、教育の機会均等、少子化対策などの責任を国民に押し付けるものである。
しかも、行き過ぎた高額な非課税制度は、相続税の補完税たるべき贈与税を形骸化させ、贈与を受けられる者と贈与を受けられない者との格差を助長し、「格差の世代間連鎖」を促すことになるため、縮小すべきである。
贈与税の最高税率(現行55%)を引き上げ、累進課税を強化すべきである。

⑶ 富裕税
近年、日本では、所得格差以上に資産格差の拡大が深刻となっている。
特に、投資可能資産100万ドル(約1億円)以上を保有する富裕層は250万人近くに達し、アメリカに次いで富裕層の多い国となっている。
世界的な格差拡大に呼応して各国で問題提起されているように、これらの富裕層の保有資産に対して、緩やかな累進税率で課税する富裕税の創設を検討すべきである。


6 その他

⑴ 金融取引税
金融取引税は、株式、債券などの金融取引に対して、低率の課税を行うことによって、過剰な金融取引と投機を抑制するとともに、大幅な税収を確保しようとするものである。
ヨーロッパではすでにフランス、ドイツなど10か国で2016年からの導入が合意されており、日本でも導入に踏み切るべきである。

⑵ その他の新しい税制
国際連帯税、環境税など、新しい税制についても、検討すべきである。

以 上

(2015年12月21日改訂)