公正な税制を求める市民連絡会

広がる貧困と格差の是正に向けて

声明

「防衛費」大拡張の白紙撤回を求め、社会保障の拡充により、誰もが人間らしく生きることができる社会への転換を求める

1 政府は、国家安全保障戦略を大きく転換し、「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有、南西地域の防衛体制の強化など、防衛力を抜本的に強化することを決め、その具体化として、「防衛予算」を、GDP比2%以上へと倍増させる方針を決定した。そして、27年度までの5年間で、総額43兆円もの巨額の防衛予算を確保し、その裏付けとして、23年度からの5年間で計3兆円強の「歳出改革」を進めるとし、27年度以降は、毎年度4兆円の新たな追加的財源が必要になるため、4兆円うちの4分の3は「歳出改革」等によって、残りの4分の1を増税によって調達する方針を示している。

2 しかし、日本の租税収入は、大企業や富裕層を優遇した度重なる減税などにより、1990年をピークに減少し、歳出と租税収入の乖離が広がって「ワニの口」が開いたと言われる状態となり、歳入不足を国債の増発によって賄い続けてきた。このような税収調達能力の減少、公債の増大に加え、少子・高齢化の進展などによる社会保障給付費の「自然増」の拡大によって、財政赤字が大幅に拡大し、今や、国・地方合わせた長期債務残高は1200兆円を超え、そのGDP比は220%(22年度末)に達し、諸外国と比べても突出した状況にある。

 政府は、これまで、このような財政状況は、国家的な危機であることを強調し、医療費の自己負担増、年金や生活保護基準の引き下げなど、教育、子育て、障害、医療、介護、年金、生活保護など社会保障のあらゆる分野で削減を進めてきており、22年10月には75歳以上の高齢者の医療費の自己負担割合が1割から2割に引き上げられたばかりである。

 ところが、「防衛予算」だけ、あたかも、財政危機の埒外であり、政府が自由に使える別枠の財源があるかのごとく、国会の審議すら経ることなくいとも簡単に拡充を決定したことは、あまりに恣意的であり、ウクライナ危機に乗じて権力を濫用し、民主主義を否定し冒涜するものである。

3 憲法は、個人の尊厳に最高の価値を置き、誰もが等しく幸福を追求し、人間らしく生活できることを権利として保障している(憲法13条、25条)。

 ところが、税収調達能力の減少した不公正な税制と、社会保障の削減に継ぐ削減によって、税と社会保障の所得再分配は機能不全に陥り、貧困と格差の拡大に歯止めがかからない。労働規制の緩和により非正規雇用への置き換えが進み、収入が不安定で家族を持つことも困難な人が増えている。若者は、自己責任の名のもとに競争を強いられ、学費が高騰し、生まれた家の経済力によって人生を大きく左右される。高齢になるまで生き抜いても低年金・無年金で困窮し孤立する人が続出している。コロナ禍の急来により、格差は一層拡大し、他方で、非正規労働者、シングルマザー、若者、低年金・無年金の高齢者、在留資格を持たない外国人など、多くの人が生活に困窮し、物価高騰が困窮に追い打ちをかけ、社会保障の脆弱性が一層浮き彫りになったにもかかわらず、抜本的な対策は講じられないままであり、不公正で理不尽な社会構造が固定化し、社会は持続可能性の危機に瀕している。

 このような状況において、防衛予算の大幅増が推進されれば、今後、「歳出改革」の名のもとに、社会保障関係費がこれまで以上に切り詰められ、窮地へと追いやられる人々が一層増加することは火を見るより明らかであり、「国家」がつぶれる前に「人間」がつぶれていく。

 また、政府は、「防衛費」の抜本拡充の決定を先行させた上で、国民の目をそらすかのように、「異次元の少子化対策」を進める方針を公表した。しかし、財源の規模も裏付けも不明確であり、生活に困窮して追い詰められている人が増加している中で、「防衛費」拡充のための負担増を強いながら、子育て世帯など一部の人を限定的に支援するとすれば、対象にならない人からの反発をあおり、社会の分断・対立が深まる懸念もある。

4 幼児から大学までの教育費は3兆円、介護サービスの自己負担1.1兆円、医療費の患者負担は5兆円規模である。GDP1%相当の5兆円があるならば、大学までの教育費及び介護サービスの無償化、あるいは医療費の無償化を実現することができ、若者から高齢者までの幅広い層が支えられ、受益感を高め、社会の連帯を促進することもできる。

 教育の無償化の推進をはじめ、今こそ、誰もが人間らしく生きることができる社会への転換が必要であり、そのためには、教育、子育て、医療・介護などの人々の普遍的・基礎的ニーズの充足(普遍主義によるベーシック・サー ビスの拡充)、不公正な税制の是正、これらにより、税と社会保障による所得再分配機能を抜本的に強化する必要がある。

 今必要なのは「防衛費」の拡充ではなく社会保障の拡充だ。私たちは、安保政策の大転換と「防衛費」大拡張の白紙撤回を求め、所得再分配機能の抜本的強化により、貧困と格差をただし、自己責任社会を転換し、人々の協働と連帯により互いに支え合う公正な社会の実現を求める。

2023年(令和5年)1月29日

公正な税制を求める市民連絡会
共同代表 宇都宮健児 外

インボイス制度の拙速な導入に反対する声明(公正な税制を求める市民連絡会)

公正な税制を求める市民連絡会は、2022年8月8日、「インボイス制度の拙速な導入に反対する声明」を公表しました。内容は、以下のとおりです。

インボイス制度の拙速な導入に反対する声明

2023年10月から、消費税の適正な納税のためとして、インボイス制度の導入が予定されている。
インボイス制度とは、消費税の仕入税額控除(事業者が消費税の納付税額を算出する際、売上の消費税から仕入や経費の支払等のために支払った消費税を差し引くこと)にあたって適格請求書(インボイス)の保存が必要とされる仕組である。そしてこの適格請求書を発行するためには、適格請求書発行事業者の登録をしなければならないが、この登録ができるのは消費税の課税事業者に限られている。

そのため、消費税の免税事業者(前々年度の課税売上高が1000万円以下の事業者が対象)が、事実上、取引から排除されるなどの不利益を被る可能性がある。
例えば、イラストの仕事をフリーランスに発注する出版社が、仕入税額控除を受けるためには、適格請求書の保存が必要となることから、フリーランスに対し、適格請求書発行事業者になることを発注の条件とするなどの例が考えられ、すでに、このような事態が実際に生じている。条件を提示されたフリーランスとしては、仕事を得るために適格請求書発行事業者となれば、免税とならずに生活が圧迫され、かつ、納税のための重い事務負担をも負うこととなり、逆に、免税事業者であり続ける選択をすれば仕事の発注を受けられないこととなり、苦渋の選択を迫られることになる。
 その影響は、建設業の一人親方、独立系SE、フリーライター、個人タクシーの運転手、フードデリバリーの配達員、シルバー人材センターの会員等々、幅広い職業に及び、その中には低所得でやりくりをしてきた者も多い。コロナ禍の到来により、フリーランスや個人事業者が大打撃を受けるとともに、物価高騰が生活を圧迫している中で、インボイス制度の導入が、追い打ちをかけ、さらなる生活困窮へと追い詰められる者が増大する可能性がある。

 加えて、インボイス制度の仕組は複雑であり、理解が追いついていない事業者も多く、2022年5月末日現在、適格請求書発行事業者の登録は約51万件にとどまっており、コロナ禍でフリーランス人口が500万人以上も増加したことも考慮すると、制度の周知方法、周知期間も不十分である。

このまま来年10月の実施を強行することは、上記のとおり、立場の弱い零細事業者やフリーランスに過大な負担を強い生活の困窮へと追い込む可能性があるとともに、納税者の理解と納得も甚だ不十分であることから、あまりに拙速であると言わざるを得ない。
当市民連絡会は、インボイス制度の来年10月の導入に反対するとともに、政府に対し、小規模・零細事業者が不利益を被る可能性、税負担の水平的公平性の毀損、帳簿作成の事務負担などの重要課題について、さらなる検討と説明・議論の場を設けることを求めるものである。

2022年8月8日
公正な税制を求める市民連絡会
共同代表 宇都宮健児

大企業による租税回避防止のため「過大支払利子税制」の抜本的強化を求める声明

現在、タックス・ヘイブン対策の重要な柱の一つである「過大支払利子税制」の強化が検討されているが、これに反対する政財界の動きがある。

「過大支払利子税制」とは、企業が、国外の関連企業等に対して過大な利子を支払って損金に算入し、それによって所得を圧縮して租税を回避することを防止するため、過大と認められる利子部分を損金不算入とする制度である。

OECDは、2015年、15の行動計画からなるBEPSプロジェクトを公表した。BEPS(税源浸食と利益移転)とは「税のルールに含まれるギャップやミスマッチを利用することによって、低税率国や無税国に意図的に利益を移し、税を逃れる戦略」のことである。現在、「BEPS包摂的枠組み(Inclusive framework on BEPS)」のもとで、途上国を含め100か国以上の国が参加し、15の行動計画に沿って国内法を改正する国際的な取組が進められており、日本も参加国の一つである。そして、「過大支払利子税制」については、BEPSプロジェクト4が、企業の支払利子の損金算入を調整所得の10%~30%に制限する、利子控除制限制度の強化を勧告し、諸外国は対応を進めている。

これを受けて、日本においても、「過大支払利子税制」の強化が検討されており、昨年の政府税制調査会においても、50%を超える部分のみ損金不算入とする現行制度を、BEPSプロジェクトの勧告に足並みを合わせ、10~30%に制限することが提案されている。

ところが、これに対し、日本経団連など経済界は、一斉に「金融市場に影響する」などとして慎重な対応を求め、金融庁や経済産業省も、反対の姿勢を示している。

しかし、利子支払いの形でタックス・ヘイブンを利用できる大企業の税逃れは見逃し、市民に対しては消費税率の引き上げ等によって課税を強化するというあり方は、不公正であり、税制への信頼を一層失わせ、市民の租税負担への抵抗を強めるばかりである。税収の流失を止め安定した社会保障財源を確保するため、実効的なタックス・ヘイブン対策が必要不可欠である。また、これまで、BEPSプロジェクトの推進に主導的役割を果たしてきた日本は、国内において、自ら率先して勧告の内容を実現していくべきである。

当連絡会は、企業の支払利子の損金算入限度について、BEPSプロジェクトの勧告に沿って10~30%に制限する改正を速やかに行うとともに、企業による租税回避の実態調査を進め、その結果を踏まえて10%以下にまで制限する必要性も検討するなど、「過大支払利子税制」を抜本的に強化することを求めるものである。

 

2018年(平成30年)12月11日

公正な税制を求める市民連絡会

代 表  宇都宮 健 児

   同    山 根 香 織

同    菅 井 義 夫

同    雨 宮 処 凛

公正な税制を求める市民連絡会設立1周年記念集会・集会宣言

5月22日(日)の公正な税制を求める市民連絡会設立1周年記念集会の集会宣言です。

財源不足を理由に、教育、子育て、障害、医療、介護、年金、生活保護など社会保障のあらゆる分野で削減が進められつつあり、日本の財政は、社会保障の削減対象を探し、次はどこを削るかに力を注いでいます。

しかし、日本の貧困率は過去最悪であり、貧困は、子ども、若者、働く世代、高齢世代、すべての世代に広がり、中流層は減少し格差が拡大しています。税と社会保障による貧困削減効果をみても、日本の場合、OECD加盟国中最低の水準にあるばかりか、共働き世帯・単身世帯の貧困を逆に拡大させるという極めて不公正な状態にあります。今こそ、社会保障の削減をやめ、財政を再構築し、税と社会保障による所得再分配を機能させることによって、人々の生存と尊厳を守り、人々が相互に支え会う社会を構築すべきです。

本日の集会では、財政を再構築するにあたり、重要となるいくつかの視点が示されました。

財政は、人間の生存と尊厳を支えることにこそ存在意義があります。だからこそ、削減ありきではなく、人々のニーズを初めに考え、そのために求められる財源を人々が負担し合うという考え方(量出制入原則)に立ち返り、財政のあり方を考えていく必要があります。

税よりも社会保険料に大きく依存する保険主義的な社会保障のあり方の見直しも必要です。保険料の負担は低所得者の生活を困窮させるなど、保険主義は低所得者に重い負担を強いる逆進的な性質を有し、貧困と格差を拡大させる要因となっています。

低所得者のみに社会保障給付を集中する選別主義には、給付を受けられる人と受けられない人との間に分断や対立を生じさせ、給付を受けられない人が税の負担に抵抗するという問題があります。すべての人を対象とする無償の教育制度など、低所得者だけではなく、すべての人の基礎的ニーズを充たし、すべての人が受益感を持てる普遍主義的な制度への志向を強め、信頼と合意に基づく財政を構築すべきです。

パナマ文書により暴露された税逃れの問題も、税制の根幹に関わる極めて重要な問題です。国内で所得税や法人税の累進性を強化し、その立て直しを図ろうとしても、タックス・ヘイブン(租税回避地)がある限り、その効果は損なわれてしまいます。また、タックス・ヘイブンを利用できる一部の富裕層や大企業が巨額な税の負担を逃れ、庶民は消費税等の負担によりその穴埋めをするというあり方は不公正であり、庶民の税負担への抵抗は強まるばかりです。政府によるパナマ文書の徹底調査と実態解明、タックス・ヘイブン対策の強力な推進が必要です。

本日、イギリスのタックス・ジャスティス・ネットワークから、力強い連帯のメッセージが寄せられました。近く参議院選挙が予定されていますが、私たちは、国内はもちろん、国境を越えて世界の人々とも連帯し、税の理不尽な仕組と戦う固い決意が多くの市民の共通の意思であることを示し、民主主義の力で、社会保障を充実させ、富を分配させ、より公正な社会を築いていきましょう。

2016年(平成28年)5月22日

公正な税制を求める市民連絡会設立1周年記念集会 参加者一同

パナマ文書の徹底調査等を求める声明

財源不足を理由に、年間3000億円から5000億円の社会保障費を削減する政府の方針(いわゆる骨太の方針2015)のもと、保育、医療、介護、年金、障害、生活保護等幅広い分野で、給付削減、自己負担増等が進められる中で、流失したパナマ文書を巡り、富裕層や大企業によるタックス・ヘイブン(租税回避地)を利用した税逃れへの批判が高まっている。

パナマ文書は、パナマの法律事務所モサック・フォンセカから流出した内部文書であり、1150万件にのぼる大量の文書やメールなどのデータからなる。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が、この文書を入手し、分析し、同法律事務所が、これまで40年にわたって、ブリティッシュ・バージン・アイランド、パナマ、バハマなど21か国・地域で21万社ものペーパーカンパニーを設立し、各国首相クラスの政治家や富裕層等を顧客として、税逃れや財産隠しの手助けしてきた実態が暴露された。イギリスの市民団体タックス・ジャスティス・ネットワークの推計によれば、タックス・ヘイブンに秘匿されている資金量は、日本の国家予算の30倍の3000兆円規模に及ぶ。

パナマ文書には日本の約400の個人や企業の情報が含まれ、タックス・ヘイブンのケイマン諸島に日本企業が保有している投資残高は約65兆円に上るなど、日本においても、近年、富裕層や巨大企業がタックス・ヘイブンを利用し、巨額な税逃れが横行し、国家財政を脅かす深刻な事態となっている。

ところが、官房長官が政府としてパナマ文書を調査することは考えていないとコメントするなど、この問題に関する日本政府の動きは極めて鈍いと言わざるを得ない。専門家の指南を受けてタックス・ヘイブンを利用できる富裕層や大企業の税逃れを見逃し、庶民には厳しく課税して穴埋めをさせ、その上、財源がないとして社会保障を削減するのであれば、格差と貧困は拡大するばかりである。政府に対する信頼は一層損なわれ、人々は租税負担に抵抗し、税収は下がり、累積債務は増大こそすれ減少しない。パナマ文書問題をきっかけに、今こそ、税制を抜本的に見直し、信頼と合意に基づく公正な税制を再構築すべきである。

当連絡会は、昨年末に提言を公表し(http://tax-justice.com/?p=248)、「タックス・ヘイブンとの闘いと破綻した国際的な税のシステムの回復」が必要であることを強調したが、公正な税制により社会保障を充実させるため、国に対し、当面の対策として、次の施策の実施を求める。

1 政府は、パナマ文書の詳細を把握し、税逃れの疑いのある企業・個人に対する徹底した調査を実施し、適切な課税を行うこと

2 現在OECDによって進められている、金融情報の自動交換制度の創設や、多国籍企業に対する「国別報告書」の義務付けを推進し、その際、すべての国が例外なく参加することができるよう、各国間の協力を進め、また、市民の監視が届くよう、会社やトラストなどの真の所有者や「国別報告書」を公開すること

3 5月に予定されている伊勢志摩サミットの議長国として、タックス・ヘイブンをなくすための実効性のある包括的な国際的合意が実現できるよう、主導的役割を果たすこと

4 国際的な税のルールの策定に当たっては、OECDだけでなく、国連のもとに新しい組織を作るなど、すべての国が参加できる仕組みの実現をめざすこと

タックス・ヘイブンを利用した税逃れを許さないためには、世界の市民が、税の公正を求めて国際的に連帯することが重要であり、当連絡会も、各国市民との情報交換、相互交流等、世界の市民との連携に向けて力を尽くす決意である。

2016年(平成28年)4月27日

公正な税制を求める市民連絡会

代表 宇都宮 健児
同  山根 香織
同  菅井 義夫
同  雨宮 処凛