公正な税制を求める市民連絡会

広がる貧困と格差の是正に向けて

コラム

ニュージーランドで毎月公開されるCOVID-19感染拡大期における所得保障給付の受給者数等の推移

COVID-19感染拡大期における所得保障給付の受給者数等の推移については、下記資料にまとめられています。

ニュージーランドでは、COVID-19感染拡大期前から、社会開発省という社会保障制度担当省庁のホームページに月ごとの主要所得保障給付受給者数等の推移が報告・公表されています。

https://www.msd.govt.nz/documents/about-msd-and-our-work/publications-resources/statistics/benefit/2020/monthly-public-update/monthly-benefits-update-june-2020.pdf

(7月19日の学習会講師をご担当いただいた武田真理子教授(東北公益文科大学ニュージーランド研究所所長)から情報提供いただきました。)

ニュージーランドのIncome Support Payment

ニュージーランドでは、2020年3月1日~10月30日の期間に職を失った人(事業者を含む。)を対象に「Income Support Payment」という新たな制度が創設されました。

但し、求職者給付(失業給付)等の他の法定の社会保障給付制度との併給はできないので、どちらかを選ばなければならないという条件付きです。

失職期間の内、12週間を上限に250$(直前までの週労働時間が15~29時間の場合)・490$(直前までの週労働時間が30時間以上の場合)の給付を週ごとに受けることができるというものです。

ご関心がある方は、下記サイトをご参照ください。
https://www.workandincome.govt.nz/covid-19/income-relief-payment/index.html

(7月19日の学習会講師をご担当いただいた武田真理子教授(東北公益文科大学ニュージーランド研究所所長)から情報提供いただきました。)

「デジタル課税」―改革のまたとないチャンス

G20大臣会合は10月18日、OECD事務局が9日公表した、巨大IT企業に対する課税強化に向けた「デジタル課税」の新しい国際ルール案を承認した。

新ルール案は、①「新しい課税権」を創設し、市場国(消費者やユーザーのいる国)でも、その国で事業を行う多国籍企業に課税できる道を開くこと、②多国籍企業が負担すべき税率の最低限を取り決め、各国による税の切り下げ競争に歯止めをかけることの二つの柱からなっている。

ほぼ一世紀前に作られた現行国際課税ルールは、グローバル化とデジタル化が急速に進展する今日時代遅れになり、多国籍企業はその旧式のルールを悪用し、またルールの隙間を利用することによって、さらに課税を逃れた資金をタックスヘイブンに隠すことによって、「合法的」に税を逃れてきた。
現在、「デジタル課税」のルール作りは、130数か国が参加する「BEPS包摂的枠組み」の下で進められており、現行ルールにとらわれず、「先入観なしに」新しいルールを作ることが合意されている。

OECD事務局案は、「新課税権」を創造し、グローバルに展開する多国籍企業の子会社群を、独立企業の集まりと考える現行の国際課税ルールに根底にあるフィクションを捨て、単一の企業としてそのグローバルな総利益を集計し、「価値の創造」に沿って各国に配分する、新しい国際ルール(ユニタリー・タックス)に向けての第一歩と位置付けることができる。

OECD事務局案は、市場国に支店など物的な拠点がなくても、新しいネクサス(つながり)を見出し、課税できる道を開いたこと、また利益の配分ルールに関して、現行の「移転価格ルール」によらず、多国籍企業のグループの総利益をもとに、「売上」を基準に、関係国に配分するいわゆる「定式配分ルール」を提案していることはとくに注目に値する。

しかしOECD事務局案は、①総利益を「通常利益」と無形資産が生み出す「超過利益」に分割し、各国に配分するのは「超過利益」の一部のみとしていること、②配分の基準を「売上」のみとすることによって、大消費国である先進国を有利に、実際の生産活動を担う途上国を不利にしていることなど、大きな弱点を持っている。
課税を「価値の創造」に適合させるためには、多国籍企業の総利益を配分の対象にすべきであるし、配分基準として「売上」だけでなく、「雇用」などの要素も取り入れるべきである。

いま、現行ルールを維持しようとするビジネス界のロビー活動や米欧の利害対立が強まる中で、事務局案の合意がさらに後退する懸念が強まっている。
「デジタル課税」に関する国際ルールは、国際的最低税率のルールとともに、2020年末の最終決着に向けて引き続き検討が続けられる。動き始めた改革の芽をつぶさず、さらに前進させるために、市民社会の緊急な対応が要請されている。

(2019.10.20 公正な税制を求める市民連絡会幹事 合田 寛)

アップルの空飛ぶ魔術―失われた2000億円余の税収・連載第8回 多国籍企業の「税金天国」日本

第8回 多国籍企業の「税金天国」日本

「アップルの空飛ぶ魔術」の連載は7回で終わる予定でしたが、タックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)がこのほど公表した、多国籍企業による利益移転によってもたらされた世界の税収損失の総額とその国別内訳について紹介し、その意味について考えてみましょう。

多国籍企業によるタックスヘイブンへの利益移転によって生じた税収の損失については、これまでも多くの専門家や機関によって試みられてきました。数年前に公表されたIMFの研究者による試算は、多国籍企業の税逃れによる税収損失の総額を6000億㌦(約66兆円)としていました。

今回のTJNの試算は、多国籍企業の税逃れによる税収損失を、その総額だけではなく、国別の内訳を試算したことに、その大きな意義があります。

この試算によれば、税収損失の総額は5000億㌦(約55兆円)と、IMFの試算と比べて控えめとなっています。国別内訳をみれば、金額では先進国の方が大きいのですが、GDPや総税収に対する比率でみると、途上国、とりわけ貧困国で大きいという結果となっています。

とりわけ注目すべきことは、日本からの税収損失が468億㌦(約5.1兆円)となっており、アメリカ(1888億㌦)、中国(668億㌦)に次いで、世界で3番目に多額の税収を奪われている国になっていることです。

アメリカの税収損失が最も多いといっても、その原因を作っているのは、主としてアメリカの多国籍企業なので、他国が口を挟む筋合いのものではないかもしれません。しかし、日本が外国の多国籍企業によって、世界で3番目に多い5兆円を上回る税収を奪われている事実は、無視することはできません。

この連載の前号(第7回)で、アップル社一社だけでも、日本は2000億円を上回る税収を奪われていることから、グーグル、アマゾンなど日本で活動する多国籍企業の税逃れの全体規模は「毎年数兆円を下回ることはないでしょう」と述べましたが、TJNの今回の試算結果は私の想定を超えるものです。

しかもこれは多国籍企業の税逃れによる税収損失の試算です。タックスヘイブンによる税収損失は、多国籍企業によるものだけではありません。これに加えて、個人の富裕者の税逃れによる税収損失があります。

世界でも最も深刻な公的債務を抱える日本にとって、多国籍企業の税逃れによる税収損失を取り戻すことは最重要課題です。

【書籍紹介】暉峻淑子さん著「対話する社会へ」(岩波新書)

暉峻さんは、以前から、格差社会は政府の政策によって作られたものだと指摘されてきました。「対話する社会へ」では、共有する社会システム(社会保障制度や社会資本など)について、税や保険料の拠出者である私たち市民が互いに話し合う「討議デモクラシー」の重要性を指摘し、「対話」が苦悩に満ちた社会に希望を呼び寄せる道であるとされています。

5月28日の集会(http://tax-justice.com/?p=636)でご講演いただく井手英策さんも、「人間が他者と利害や価値を共有して何かをおこなうためには、ひとつの前提が不可欠である。それは、他者から承認されているという実感、自分が周囲と等しい扱いを受けているという確信である。…この承認欲求を理念によって満たすには二つの方法がある。ひとつは、愛国心や倫理・道徳に訴える、「一君万民」的な理念を共有することである。いまひとつは、地域という共同体のなかで、「生存と生活の基礎的ニーズ」を社会の構成員それぞれが主体的に発見し、負担という痛みを分かち合いながら、構成な分配の理念を共有することである。」(「分断社会を終わらせる」(筑摩選書・237頁))と述べられています。

地域からの「対話」が、一君万民的な理念や愛国心の陥穽に陥らないために重要であり、社会の分断・対立や格差社会を超えて、人間のための財政を構築し、公正な社会を実現することにつながるのではないでしょうか。

【書籍紹介】地方財政を学ぶ

公正な税制を求める市民連絡会の学習会でご講演いただいた高端正幸さん(共著)の「地方財政を学ぶ」(有斐閣ブックス)が発刊となりました。

教育、医療、保育、介護などの対人社会サービスを充実させるためには、住民に身近な地方自治体の役割、地方財政のあり方を学び、考えることが大切です。

アップルの空飛ぶ魔術―失われた2000億円余の税収・連載第7回「BEPSプロジェクトと日本の課題」

第7回 BEPSプロジェクトと日本の課題

この連載ではアップル社を取り上げ、その税逃れの魔法の謎を解き明かし、奪われている税収を試算しました。しかし税逃れの魔法使いはアップルの専売特許ではありません。グーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフトなどの巨大企業は、そのグローバルな活動の中で税を最小限にするさまざまな戦略をとっています。これら巨大企業の巨大市場である日本でも、グローバルな税逃れ戦略が実施されていることは言うまでもありません。

日本では、アップルやグーグルなど多国籍企業が提供する製品やサービスは、なじみが深く、多くの人たちによって利用されています。しかしこれらの多国籍企業の多くは、日本の証券市場に上場していないこともあり、日本における活動の実態は全くの闇に包まれています。売上高、利益、雇用者数、納税額などを知ることはほとんど不可能です。

アップル1社だけで毎年2000億円を上回る税収が失われているとすると、グ―グル、アマゾンなど日本で活動している多くの多国籍企業による税逃れの全体規模は、毎年数兆円を下回ることはないでしょう。

多国籍企業による利益移転と税逃れについては、国際的に取り組むべき優先課題として、OECDによるBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトが進められています。BEPSプロジェクトは行動計画の一つとして、多国籍企業に国別の販売高、利益、雇用者数、納税額の開示を求める「国別報告書」の提出を義務付けることになりました。多国籍企業の日本子会社の「国別報告書」が提出されれば、日本における利益や納税額もわかることになります。

BEPSプロジェクトが目指す終局の目標は、多国籍企業が利益を低税率国に移転して税を逃れることを根絶しようとすることにあります。そのためには先進国であれ、途上国であれ、まずは各国が自国内で活動する多国籍企業子会社の実態を把握し、自国の税法に基づく適切な課税を行うことが不可欠です。

フランス、イタリアなどヨーロッパ諸国は、すでにアップル、グーグルなどの多国籍企業に対する課税の動きを強めようとしています。ところが日本では、アップルなどの例でみられるように巨額の税逃れが行われているにもかかわらず、目立った動きは見られません。

BEPSプロジェクトをめぐって日本が取り組まなければならない課題として、日本企業による課税逃れを封じることはもちろん重要ですが、同時に海外の多国籍企業による日本における税逃れを封じることが、緊急に求められている重要な課題です。

今年初め、市民運動の代表として、私たちは来日したOECDのパスカル・サンタマン租税局長と会談の機会を持ちましたが、私の上記の指摘に対して、サンタマン局長は全面的に同意し、日本の市民運動に対する期待を表明されました。

多国籍企業による税逃れを封じるBEPSプロジェクトを成功させるうえで、日本は重要な役割を果たすことが求められていますが、そのためにも日本の市民運動が果たすべき役割は大きいのです。

アップルの空飛ぶ魔術―失われた2000億円余の税収・連載第6回「魔法で消えた1兆円」

第6回 魔法で消えた1兆円

アップル社が使った魔法の数々は同社が当然負担すべき税を大きく軽減することに貢献しました。第1の魔法によって南北アメリカ大陸を除く諸外国で得た利益はアイルランドに移転され、ほとんど無税となりました。

その仕組みによって最も影響を受けたのはアメリカ以外の諸国の税収です。アメリカ上院の調査によると、例えば2011年に、アメリカはアップルの全世界の課税前利益の30%を得、残りの70%はアメリカ以外の諸国が得ています。その内訳はアイルランド64%、その他諸国6%となっています。一方アップル製品の消費者の分布をみると、アメリカ39%に対してその他諸国が61%を占めていますが、その内訳はアイルランド1%、その他諸国60%となっています。

つまりアイルランドには消費者が1%しかいないのに、全世界の利益の64%が集中しているのです。逆に言えばその他諸国には消費者が60%もいるのに、利益は6%しか配分されていないのです。このギャップはアメリカ以外の大半の諸国で生まれた巨額の利益の大半が、アイルランドに移転させられたことを物語っています。その結果、アメリカ以外の諸国(日本を含む)では、当然得られるべき巨額の税収を奪われているのです。

例えば直近(2016年)の年次報告書で見ると、アップルのアメリカ以外の課税前利益は411億㌦(約4.5兆円)ですが、同地域での納税額はわずか21.4億㌦(約2350億円)です。その負担率はわずか5.8%という低さです。最近10年間(2007年~2016年)をとると、税引き前利益の合計2367億㌦(約26兆円)に対して、納税額は95.4億㌦(約1兆円)で、負担率は年平均でわずか4%と、無税に近い負担率です。

このアップル社の世界的税逃れ戦略は、アメリカ以外で生じた利益をアイルランドに集中し無税化するもので、もちろん日本も例外ではありません。日本から奪われた税収は、このシリーズの第1回で述べたように、2016年だけで2300億円前後に上ります。最近5年間(2012年~2016年)をとると、失われた税収は1兆円を上回る計算になります。1社だけによる税収ロスとしては無視できる大きさではありません。

アップルの空飛ぶ魔術―失われた2000億円余の税収・連載第5回「ふたたび旅へ」

第5回 ふたたび旅へ

アイフォーンなどアップル製品は実際には中国で製造され、組み立てられ、直接、消費国に配送されます。しかし帳簿上では余計な回り道をして、はるか離れたアイルランドの子会社(ASI)が完成品の最初の購入者となります。ASIは購入した製品を各国の消費者向けに再販売することになります。

ヨーロッパ、アフリカ、インドなどに対してはもう一つのアイルランド子会社ADIを通じて、日本を含むアジア向けはシンガポール子会社を通じて消費者の手に届けられます。カリフォルニアから始まったアップルの旅は、アイルランドで一息つく暇もなく、ヨーロッパ諸国、アフリカ諸国へと、あるいはユーラシア大陸を超えてアジアへと、はるかな旅にふたたび飛び立つのです。

しかしこの旅は最初のアイルランドへの旅と同じく、普通の旅ではありません。アイルランド子会社もシンガポール子会社など消費国に届くまでの中継子会社も、すべて多国籍企業アップルのグループ内の子会社です。グループ内の子会社どうしの取引は、貿易という形をとっていても、その取引は同一会社内の内部取引なので、その価格を自由に決めることができます。

アイルランド子会社ASIは、中国で生産された製品を安く購入する一方、消費国には高い価格で販売することによって、利益の大半を手元に集中していたのです。これが移転価格による利益の移転です。こうしてヨーロッパ諸国や日本などで生じた販売利益を、アイルランド子会社に集中することができたのです。これが魔法の第3です。

それだけではありません。アイルランドのアップル子会社は、どの国にも居住しない法人になりすますことによって、どの国からも課税されない「無国籍法人」と化しました。

法人に対する課税方式として、法人が設立された国が課税するという考え方(本店所在地主義)と、法人を管理・支配している国が課税するという考え方(管理支配地主義)とがあります。アメリカや日本は前者の考え方をとっていますが、アイルランドは後者の考え方をとっています。

AOI、AOE、ASIなどのアップル社のアイルランドにある子会社は、アイルランドで設立されていますが、同国での管理・運営の実態はありません。例えばAOIには三人の取締役がいますが、そのうち二人はカリフォルニアに居住しており、取締役会はほとんどカリフォルニアの本社で開かれています。ASIの取締役会も同様にカリフォルニアで行われています。

これらの事実はアイルランドの子会社に対する管理・支配はアメリカで行われていることを意味しています。したがってアイルランドでは課税されることはありません。他方これらのアイルランド子会社は、アメリカで設立された会社ではないので、アメリカでも課税することができません。結局、アイルランドにあるアップル子会社は、税の上ではどこの国にも居住しない「国籍なき企業」として扱われ、どこの国の課税権も及ばないことになっているのです。これが魔法の第4です。

(公正な税制を求める市民連絡会幹事・合田寛)

アップルの空飛ぶ魔術―失われた2000億円余の税収・連載第4回「『消された』子会社」

第4回 「消された」子会社

知的財産権をアイルランド子会社に移転し、そこに利益を集中したとしても、それだけではアメリカ政府の課税から逃れることはできません。

アメリカにはタックスヘイブン子会社への利益移転による課税逃れを規制するために、タックスヘイブン対策税制があります。一定の所得について、タックスヘイブン子会社に留保しても、本社に配当されたとみなして、本社の利益と合算してアメリカの税率で課税するというルールです。

前回述べたようにアップル社はアメリカ以外の国で得た利益を、アイルランド・セールス・インターナショナル(ASI)に集中しますが、ASIに集められた利益は、親会社のAOEを通じて、さらにその親会社のアップル・オペレーションズ・インターナショナル(AOI)に配当として集中します。

AOIはアップル社の海外子会社のほとんどを直接・間接に保有する持ち株会社で、ASIと同じく従業員ゼロのペーパーカンパニーです。重要事項はアメリカの本社の取締役会で決められるなど、本社の管理・支配下に置かれています。 したがって本来ならば、AOIに集中された利益は、タックスヘイブン対策税制によって、本社の利益に合算されて課税されることになります。

しかしここに登場するのが第2の魔法です。アメリカにはチェック・ザ・ボックス規制というルールがあり、申告の際に、ある子会社を課税対象である法人にするか、それとも他の法人の支店にするかの選択を認めています。支店にすることを選択すれば、その子会社間の取引は会社の内部取引とみなされ、取引がなかったものとみなされるのです。

アップル社はAOIの傘下のすべての子会社を、AOIの支店として扱うことを選択しており、その結果アメリカの課税当局からみれば、これらの子会社は存在しないことになり、子会社間の取引も消失してしまうのです。透明人間ならぬ透明企業になるのです。

チェック・ザ・ボックス規制はアメリカのタックスヘイブン対策税制の抜け穴であり、これを利用することによって、アップル社は本来なら本社の利益と合算して課税されるべきタックスヘイブン子会社の利益を、本社から見えなくし、課税を逃れているのです。

(公正な税制を求める市民連絡会幹事・合田寛)