第7回 BEPSプロジェクトと日本の課題
この連載ではアップル社を取り上げ、その税逃れの魔法の謎を解き明かし、奪われている税収を試算しました。しかし税逃れの魔法使いはアップルの専売特許ではありません。グーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフトなどの巨大企業は、そのグローバルな活動の中で税を最小限にするさまざまな戦略をとっています。これら巨大企業の巨大市場である日本でも、グローバルな税逃れ戦略が実施されていることは言うまでもありません。
日本では、アップルやグーグルなど多国籍企業が提供する製品やサービスは、なじみが深く、多くの人たちによって利用されています。しかしこれらの多国籍企業の多くは、日本の証券市場に上場していないこともあり、日本における活動の実態は全くの闇に包まれています。売上高、利益、雇用者数、納税額などを知ることはほとんど不可能です。
アップル1社だけで毎年2000億円を上回る税収が失われているとすると、グ―グル、アマゾンなど日本で活動している多くの多国籍企業による税逃れの全体規模は、毎年数兆円を下回ることはないでしょう。
多国籍企業による利益移転と税逃れについては、国際的に取り組むべき優先課題として、OECDによるBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトが進められています。BEPSプロジェクトは行動計画の一つとして、多国籍企業に国別の販売高、利益、雇用者数、納税額の開示を求める「国別報告書」の提出を義務付けることになりました。多国籍企業の日本子会社の「国別報告書」が提出されれば、日本における利益や納税額もわかることになります。
BEPSプロジェクトが目指す終局の目標は、多国籍企業が利益を低税率国に移転して税を逃れることを根絶しようとすることにあります。そのためには先進国であれ、途上国であれ、まずは各国が自国内で活動する多国籍企業子会社の実態を把握し、自国の税法に基づく適切な課税を行うことが不可欠です。
フランス、イタリアなどヨーロッパ諸国は、すでにアップル、グーグルなどの多国籍企業に対する課税の動きを強めようとしています。ところが日本では、アップルなどの例でみられるように巨額の税逃れが行われているにもかかわらず、目立った動きは見られません。
BEPSプロジェクトをめぐって日本が取り組まなければならない課題として、日本企業による課税逃れを封じることはもちろん重要ですが、同時に海外の多国籍企業による日本における税逃れを封じることが、緊急に求められている重要な課題です。
今年初め、市民運動の代表として、私たちは来日したOECDのパスカル・サンタマン租税局長と会談の機会を持ちましたが、私の上記の指摘に対して、サンタマン局長は全面的に同意し、日本の市民運動に対する期待を表明されました。
多国籍企業による税逃れを封じるBEPSプロジェクトを成功させるうえで、日本は重要な役割を果たすことが求められていますが、そのためにも日本の市民運動が果たすべき役割は大きいのです。